FN109号
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8月26日 北口本宮には浅せんげんじんじゃ間神社と諏すわじんじゃ訪神社というふたつの神社が置かれている。敷地内はひろく、杉林にかこまれた参道は重々しい雰囲気に満ちていた。 境内のなか、色とりどりの法被を着た人びとが本宮へと向かっていく。「本ほんでんさい殿祭」と呼ばれる神事だ。あたりは仄ほの暗く、祭りらしい音色が境内に響きだす。それはまるで始まりの合図のようだった。‌‌祭りを取り仕切る祭典世話人のかたの合図で神みこし輿が神社から担ぎ出された。神輿は参道を駆け出していく。「わっしょいわっしょい」という掛け声とともに進む二基の神輿を追う。今年は感染症の影響で、参道をぬけた先は機械で運搬することとなっていた。 神輿がフォークリフトに設置されると、御おたびしょ旅所というゴールに向かって進みだした。勢せこ子と呼ばれる担ぎ手たちは神輿を取り囲むようにして進んでいく。落ちないようにと神輿を支える手はいつしか神輿に触れるだけとなった。それでも彼らが神輿から手を離さないのは、担ぐことがかなわずとも祭りとつながっていたいからなのだろう。 夕暮れに差し掛かるなか、神輿はまちを進む。掛け声は神社を出てから一度も弱まることはなかった。 御旅所につくと、いよいよ松明へと火がともされた。吉田のまちが大きな炎でいろづいていく。日暮れとともに、北口本宮へと到着した。すべての松明への点火が終わろうとしている。杉林に囲まれいっそう暗くなった参道を、ぼんやりとした灯とうろう篭

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