FN109号
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左から藤枝さん、槇田さん、槇田さんの奥さま。ほがらかな顔が印象的だった(2021年8月1日)お花の柄の生地がついたショップカード(2021年11月6日)お花の柄の生地がついたショップカードれでも、「地元の織物店と地域のかたとをつなぐ役割を果たしたかった」と口にする。たしかに、都留周辺は織物が盛んなまちだと聞いていた。いっぽうで都留に住んで一年以上たつが、あまり触れたことがない。じっさいに見たおかげで「ただ知っていること」ではなく、実感できた経験へと変わった。 展示については、藤枝さんと槇田商店の担当のかたがアイデアを出し合ったという。作る過程を織ったすごろくや、生地のついたショップカードも、今回初めて作られたものだ。すごろくは社員さんのお気に入りで、生地をつけたショップカードは、「手元に置いて、触れあえるように」という願いからだそう。どの展示にも必ずエピソードをつけて話してくださる。一つひとつに想いが込められているのを感じた。引き出しをつくる 会場に来ていたかたが「昔ここの傘を買ったんだけど、良かったので娘や息子の嫁に何本も買いました」とにこやかに話した。一緒に聞いていた槇田さんの顔もどこか誇らしげだ。糸を綿密に織り、120日もかけて、ていねいに作りあげるから長持ちする。自分へのご褒美や大切な人へのプレゼントに買ってみたいと思わせてくれる。藤枝さんにもそのことを話すと、「そうそう。出会っておいて、自分のなかで引き出しとして持っておいて、いつか買えたらいいな。そのいつかのタイミングを作れれば」と、いたずらが成功した子どものように笑う。藤枝さんの狙い通り、私は引き出しを作ってもらえたのだ。「そんな仕事についてみたい」。話を聞きながら思う。すぐに形になったり、お金が入ったりするわけではない。しばらくして引き出しを開けたとき、種から成長した花が咲くように、その人だけの特別な経験になる。そのときに、出会った日のことを思い出してくれるだろう。将来に悩む私だが、これから人生を考えていくための、一つの軸になるかもしれない。* * *  偶然見つけた展覧会で触れた織物には、写真ではわからない模様の細かさや、光による変化があった。それは槇田商店がチャレンジをしつつも、ていねいさは失わずに作った生地だからこそ生み出されたものだ。藤枝さんに作っていただいた心の引き出しを開けるのはいつになるだろう。槇田商店の傘とともにまちを歩く自分のすがたを想像した。20no.109 Dec. 2021

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