FN109号
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22no.109 Dec. 2021 秘湯探訪駅をでるとすぐに葭之池温泉の看板が目に留まった。道順にそって歩いていくと「創業安政三年」とかかれた現代風の看板もみつける。添えられた英語に海外からの観光客も想像できた。安政とはどれほど前のことなどだろうか。駅名になるくらい地元に根差した温泉のはずだ。奥まった場所に葭之池温泉はあらわれた。まず趣のある宿泊施設が目に入る。玄関の向かいには「葭之池」と掘られた石碑も立っていた。水面はすっかり植物におおわれ本当に存在するのかわからない。引き戸を開けると、ヒュルルルルと機械じかけの鳥が優しく高らかに鳴く。奥にあるまとまりのよいカウンターから、女将さんである渡わたなべちえこ辺知惠子さん(84)が出迎えてくれた。外装とおなじ黒ずんだ内装を予想していたが、新築の雰囲気すら漂っている。お話をうかがうと、彼女はのどやかに話しはじめた。昔話が始まったようで、自然と耳を澄ませてしまう。葭之池温泉は今年で創業167年目を迎えたそう。彼女は5人姉妹の次女として生まれ、父が病気になったことをきっかけに、経営を引きついだ。母ひとりでの経営は難しかったからだ。今ではお子さんたちと仕事を分担しながら運営を続けている。物語る葦やがて富士急行線が開通し、駅名はなぜか「葭池温泉前駅」と「之」が省略されたと教えてくださった。昔は温泉施設が珍しく、地域の人も足しげく通っていたそうだ。当時から皮膚病に効くと評判のお湯だ。しかし、まわりに施設が増えるにつれて客足は遠のいていったそう。カウンター奥には所せましとサイン色紙が飾られている。「自分だけの秘湯が求められているのかもしれない」。お客さんは贅沢な「おひとりさま」時間をねらって、お忍びできているのだろう。感染症が流行するまでは、海外からのお客さんも多く、英語が得意な甥御さんが対応していたそう。彼女は、「外国のかたは古風なのがお好きでしょう」と、上品にほほ笑んだ。 葭之池と渡辺家の歴史は深い。池に生えた葦を使って、一年の豊作を占うそうだ。この大人数で訪れても、宿泊や食事を楽しめる写真はすべて2021年7月11日に撮影しました。
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