FN109号
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27三みつとうげつ峠駅の改札を抜けて約10分。大通りを左折しようと体の向きをかえたとき、向かい側にあるお店に目が釘付けになった。入り口の半分ほどが坂に隠れている。そんな前田商店は、時間を気にせず居続けたくなる場所だった。広がる店内お店のまえにならぶ数本のの﹅ぼ﹅り﹅がゆるりと風にゆれる。お店というより一軒家に見えた。少し緊張しながら腰をかがめて入り口をくぐる。頭をあげるとショーケース越しに和菓子と目があう。視界に飛び込んできた和菓子の距離の近さにおどろいて、つい目をそらしてしまう。ふとお店の奥をみると、黒みがかった木の壁とガラス戸にはさまれた通り道が見える。風情あるたたずまいに、少しのあいだ足をとめて見入ってしまった。「こんにちは」。私の声に応えてくれたのは前田和かずよし吉さん(86)と貴たかこ子さん(82)だ。息子さん夫婦と4人でこの前田商店を営んでいる。前田商店は創業して110年くらいになるのだとか。「明治からかな。正確にはわからないけどね」と、小さいころの記憶を呼び起こしながらお話してくださった。土地や建物を少しずつ買い足したり改装したりして、現在の前田商店があること。かつては、お店のまえの道路を、馬車が走っていたこと。「(昔のことを)きいておけばよかったね」と貴子さんは口元に小さく笑みをのせる。ときおり和吉さんに確認しながら知る限りをお話してくださるすがたに、祖父母から昔話を聞いているときの光景が思い浮かんだ。店内には、お惣菜から日用品までさまざまな品物が並んでいるが、創業当初はおまんじゅう屋さんだったそうだ。そのほかにも、手作りの飴も売っていたのだとか。「和菓子を作る職人さんがいてね、最盛期にはお店番の人が5、6人いたこともあったんだよ」。どこか誇らしげな声に、想像が膨らみ心が躍った。前田商店の外観とその入り口まどろむ空間
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