FN109号
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お店の奥にある、作業場も見せていただいた。年季の入った壁沿いに、見たことのない機械がいくつか並んでいる。「これ何ですか」と、工場見学にきた小学生のようについ矢継ぎ早に質問を投げかけてしまう。大福をつくるときに使う、もちで餡を包む機械や大きな蒸し器などを見せていただいた。「これね、鉄板。どら焼きなんかを焼くの」と、和吉さんがゆっくりと説明してくださる。仕事道具というよりは、ともに店を支える仲間のようだ。職人らしい愛着を持っていることが、機械に触れる手のやさしさから伝わってきた。突風が運ぶなつかしさ 興味のむくまま質問した私に付き合ってくれたお二人は、「どうぞここ座って」とご夫婦の定位置であろう場所に誘ってくれた。小あがりになっている和室に横並びで腰かけながらのんびりとお話していると、お客さんが来た。男子小学生2人組だ。もうランドセルを家に置いて遊びに出かける時間か。そう思いながら小さなお客さんたちを眺める。彼らは小銭をもって駄菓子を買いに来たようだ。流れるように自転車を止める。そしてヘルメットをかぶったまま駄菓子を選び、颯爽と走りさっていった。台風のような彼らのうしろ姿をガラス戸越しに眺め、なつかしいなと独り言がこぼれた。予算を超えないよう計算しながら駄菓子を選ぶようすが、記憶にある遠足に持っていくお菓子選びと重なる。彼らは近くの公園へ行ったのだろうかと想像していると、別の小学生2人組が来店した。今度は女の子だ。彼女たちも駄菓子や飲み物を買っていった。お会計をしているときに、またお客さんが来た。友人のようで、驚きながらも声をかけている。このお店は、子どもたちにとって「いつもの場所」みたいなところなのかなと心がじんわりあたたかくなった。想いは宿る「古いだけだよ、こんなの」。趣を感じさせる雰囲気を、素敵ですねといった私にかえってきた言葉だ。貴子さんは首を左右に振る。けれど、さらりとこぼされた「お店をたたむ気はなかったから……」の言葉に、前田小あがりに腰かける和吉さんと貴子さん。ここでお話を伺った28no.109 Dec. 2021

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