FN109号
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29写真はすべて2021年9月10日に撮影しました。商店を大切に思う気持ちがみえた気がした。お店の外と内では空気が変わる。車どおりの多い道路に面した場所にあるので、外はエンジン音が響いている。そんななか、お店に一歩足を踏み入れると、ふっと騒音がかき消える。前田商店のガラス戸と壁は、やわらかな結界のようだ。店舗部分では、ときに子どもたちのにぎやかな声が響く。店内と居間の境目では、お客さんとのやり取りがうまれる。小あがりにはご夫婦の穏やかな空気が漂う。お二人の視線の先にみえる三叉路も、外ではやかましく思えた車どおりだって、ここからなら穏やかな気持ちで眺められるから不思議だ。ふと「幸をもたらすつくも神」という言葉が頭に浮かぶ。もしかして、このお店自体がそうなのではないか。包み込まれるような雰囲気に、そう考えるくらい居心地がいい。先祖代々、想いとともに大切に受け継いできた場所なのだろう。水に絵の具がにじむように、「もっといたい」が心に広がる。小あがりに座って眺める景色は、柔らかく心に留められる。飽きることなどなく、たゆたうように流れていく時間が心地よかった。このお店自体にも、お二人にも、いつまでもあり続けていてほしい。そんなお店でのひとときだった。 「電車何時なの」と貴子さんに尋ねられた。あと10分くらいで行こうかと思っています、とこたえると、おもむろに和吉さんが立ちあがり、店頭へ歩いていかれる。「こっちおいで、好きなの選んで」。そう手招いて、お土産に和菓子を包もうとしてくださる。どれもおいしそうで選べない私は、おすすめの和菓子をお聞きした。「おすすめはね、全部」。そう言った和吉さんは、にやりといたずらっ子のような笑みを浮かべる。そして、これとこれと……と声が聞こえるように和吉さんが和菓子を選びだす。そんなに頂いてしまっていいのかとあわあわする私をよそに、和吉さんがゆったりと和菓子を紙袋に入れている。そこに、店の奥から「もうそろそろ時間だよ」と貴子さんから声がかかる。あわただしくお礼を伝え、手を振りながらお店をあとにした。まだ電車が到着していないホームをみて、似たようなことがあったな、とふと笑う。思い出すのは、実家からひとり暮らす部屋に戻るときの荷詰めの光景だ。「これももってけ」、「そんなに入らないでしょ」、という両親の声が重なって聞こえる。帰りがけに前田さん夫婦がくれた温もりのかけらを集めながら、マスクの下でひとり口を緩めた。また行こう。そう決めて改札を通りぬけた。林舞子(学校教育学科2年)=文・写真(左)作業場への入り口(右)お会計中に、もう一組の小学生のお客さんが来た
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