FN109号
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343434「モルゲンロート」とは、朝焼けが山肌に反射して山が赤くなる現象のことである。いっぽうで「アーベントロート」とは、夕焼けで山が赤くなることをいう。山が赤くなる現象は、気温や湿度、風の強さや雲の有無などに大きく左右され、どちらも見るのは容易ではない。忘れかけていた美しさ 9月19日、夏休みの帰省も終わりに近づいていたころ、6階にある実家から地平線に夕日が沈むのを見た。地元には人工的に植えられた木々が均等に並ぶだけで、自然に触れる機会が少なくなっていた。そんなとき久しぶりに夕日を見て、忘れかけていた自然の美しさにより強く魅了された。地元の夕日に魅了され、インターネットで夕日の写真を調べていると、赤く染まった山の写真を見つけた。山は燃えているかのようにまっ赤で、ぜひ都留で見てみたいと思った。都留では部屋のベランダから山が見える。周りの山には木々が自在にのびていて、森の香りや虫や鳥の声を身近に感じられる。山に夕日が沈むのを見るのは日常だった。朝は苦手なので、夕方に見えるアーベントロートを探すことにした。アーベントロートをさがす 今年の春に城じょうなんばし南橋から撮った写真で、遠くの山がほのかにピンク色になっているのを思い出した。9月29日17時ごろ、曇っていた空から夕日が差し込む。これは見られるかもしれない。自転車で城南橋へ急ぐ。しかし目的地に着く前に、再び夕日が雲に隠れてしまった。太陽が雲に隠れている日は、アーベントロートを見るのは難しい。その日は諦めて、翌日、ふたたびチャレンジすることにした。 次の日、今日こそはとやる気に満ちていた。写真と周りの景色を見比べながら、自転車で山へ向かう。やや曇り気味だが、太陽の光はきちんと差し込んでいる。これなら見られるはず。鍛かじやざか冶屋坂トンネルを越えると、そこには山が広がっていた。歩道の上で立ち止まり、辺りを見回す。近くには川があり、水の流れる音がする。川のそばの草むらでは、虫が鳴いていた。田舎のおばあちゃん家のような風景に思わずほほ笑む。 1時間ほどその場所にいて、山が赤くなるのを待った。遠くの山がうっすらとピンク色になったが、その山までの距離が遠く、思い描いていたアーベントロートではない。写真を撮ったが、あまりに山が小さくてピンク色になっているのもわからない。夕日が山に沈遠くの山がうっすらピンク色に染まる(2021年10月16日)no.109 Dec. 2021

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