FN109号
36/60

7月、色鮮やかな畑を横目に都留市田原の農産物直売所へ向かった。直売所ならではのハリのある野菜がならぶ。どんなかたが作っているのだろうか。農業をするやりがいを、出品者の内ないとうひでゆき藤季行さん(69)と梅うめざわ澤すみ江さん(68)にうかがった。幸せのおすそ分け内藤さんは、都留市農林産物出品者組合J‌A都留市農産物直売所で、組合長を務めている。「会社を退職してから、親の畑を遊ばせるわけにもいかなくて、農業を始めたんですよ。そうするうちにいいものができて、多くの人とわかち合えることが楽しみです。それが少しでもお金になりますし、孫たちの小遣いにも繋がるわけですね」とおっしゃる。お話を聞いただけなのに、不思議と内藤さんとお孫さんの笑顔が見えてくる。無事に作物の収穫を迎えられた喜びを、野菜を受け取る人とも共有できる。農業は内藤さん自身の幸せであり、生きがいとなっているようだ。お話の途中で、そういえば、と野菜を育てている祖父を思い出す。出品してはいないものの、作りすぎたからといってよくおすそ分けしてくれた。くるんと丸まったキュウリに、でぶんと肥えたナスなど、一度きりしか出会えない形や大きさが魅力だ。野菜を味わう前から心がおどってしまう。子どものころから苦手な野菜はなかったが、祖父が育てたものとなれば愛着がわき、張り切って食べていた。何より、いいのができたと、満面の笑みで詰め合わせた野菜を持ってきてくれた祖父が眩しく思い返される。内藤さんの言う「多くの人と分かち合う」とはこの瞬間のことなのだろう。祖父が足どり軽く野菜を届けてくれたのもうなずける。いっぽう、組合で庶務会計を務める梅澤さんは「種をまき、芽が出て、花が咲いて、実になる過程がすごく好きなんです。収穫できるのももちろんいいですけど、実りまでの過程を見ると関わってこられてよかったなぁって嬉しくなります。そこから、消費者のかたに買ってもらえて『おいしかったよ』って言ってもらえればそれが一番。次もまた頑値札をつけた野菜がカゴを埋め尽くしている。作業をしながら会話が飛びかう(2021年8月1日)それはまるでわが子おくりもの野菜以上の36no.109 Dec. 2021

元のページ  ../index.html#36

このブックを見る