FN109号
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37張ろうって思いますね」と、ほほえまれる。ふと、小学生のころにミニトマトを栽培したことを思い出した。まわりのプランターと見比べて、私のより成長が早いものがあると羨ましかった。懐かしい思い出を話すと、梅澤さんも「毎朝畑に行くと、トマトが昨日より赤くなっているとか、変化が分かるんです」とうなずいてもらえて、嬉しくなる。「でも、途中で枯れてしまうこともあって。種から育てる野菜はとくに。水を一日忘れるだけでダメになっちゃうのね。」と、自然を相手にする難しさを語る声色は少し暗くなっていた。内藤さんも「種から育てるときは子どもを育てるのとおんなじ。苗からの収穫と種からの収穫では感動が全然違う」。そう付け加えた。育てるなかで、天候が原因で病気にかかる野菜も出てくる。農業をする過程での苦労や悩みを直売所のみんなで相談しあえるところがいいところだと、お二人は口をそろえた。毎日、よりいいものを目指している証だろう。いつのまにか目の前にいるお二人が研究者のようにみえてきた。また、お二人はジャガイモや水みずかけな掛菜などを学校給食にも提供されている。都留市の学校では給食中に、使用された食材と合わせて、農家さんの名前も放送されるそうだ。そうすることで、給食により安心感が加わるのだろう。自信をもって育てた野菜たちは生産者の皆さんの名刺のようである。「張り合いが生まれますよ、やっぱり。地元の農家が給食に携わることができて、名前を紹介してもらえるのはありがたいですね。」と言う内藤さんに、梅澤さんもうなずく。「『今日はおじいちゃんのニンジンが出るから、ちゃんと食べるんだぞ。そんで、仲間にも教えてあげなさい』って、孫に言うんです」。小中学校にかようお孫さんたちに内藤さんはそう伝えるのだという。給食でも自分の野菜を食べてくれることを満足そうに目を細めて語った。おじいちゃんのニンジンを給食で食べられるお孫さんたちも幸せにちがいない。きっと自慢のおじいちゃんなのだろう。* * *お二人が野菜をつくる裏には、手入れを欠かさず、質の高い野菜をつくるための努力がある。そして、見えないところで手間ひまをかけ、向上心と誠意の詰まった野菜が育つ。お二人の原動力は「多くの人に喜んでもらいたい」という気持ちだ。家族、お客さん、給食を食べる小中学生など、対象はさまざまだが、熱量は変わらない。「なるべくいいものを安く届けることが、ここの皆さんの想いですから」。そう繰り返すお二人の、信念をもって挑戦するすがたが目に浮かんだ。谷朱理(比較文化学科1年 )=文・写真提供者の使ってほしい野菜が献立に反映されることもあると話す、内藤さんと梅澤さん(2021年11月27日)野菜は子どもたちへ

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