FN109号
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38no.109 Dec. 2021 8月31日 午後3時、私は一人で楽山公園の近くから森に入った。感染症の影響で、この日までの一週間ほどを家から出ずに生活していた。そのせいで一歩いっぽが重い。あいにくの曇天だったが、久しぶりに空のしたに出た私にとっては、まぶしすぎない最適な天気だった。 新鮮な空気を吸い込みながら、植樹された千本桜の脇道を進む。道にはぷっくりと丸いドングリが落ちていて、秋の訪れを感じさせる。しかしその色はまだ緑だ。モミジもまだ青々としている。予想よりも夏らしさは残っているようだ。しばらく進んで、一番高いところに出る。こんなに遠くまで見渡したのはいつぶりだろうか。家での生活が続き、近くしか見ていなかった目が、ぱっちり開いた気がした。ぱらぱら降ってきた雨が顔に当たって、ますます外に出てきた実感がわく。 もう少し登ってみよう、と一歩踏み出したその時だった。地面に鋭い爪痕が刻まれているのが見えた。体が一瞬こわばり、すぐに下山する。しかし、平地に着いてから私はあることを思った。この足跡をのこした獣は、今感染症が流行しているのを知らず、のびのびと生活しているのだろう。そう考えると、怖さよりもうらやましさが勝って、なんだかもう一度足跡を見たくなった。私はその場所まで戻って、写真を撮った。9月29日 今日は編集部の先輩と本学の近くから登り、元坂の水道橋を目指す。まず私たちを待っていたのは、先の見えない登り道だった。左手には野原が広がっていて、そのもっと奥にはまちが見える。右手には木が茂っていて、午後の木漏れ日を地面にきらきらと映している。その景色を見ながら、私たちは息を切らして登った。本当はこの景色に合うような涼しい顔で登りたかったが、あまりにも傾斜が急だった。 頂上と思われるところに着いたあと、今度は下り道を進む。ススキがさやさやと揺れている。途中、「友愛の森」という休憩所があった。近くの地面には栗のイガがたくさん落ちている。しかし、イガのなかには栗が入っていない。近くの茂みを見ると、不自然なトンネルがあるのが目に入った。このトンネルを使って都留は四方を山に囲まれている。私は、せっかく都留にいるのなら山に登るべきなのでは、そう思った。そこで「都留アルプスハイキングコース」を月に1回、3ヶ月にわたって歩き、山の季節の移ろいを観察することに決めた。 38no.109 Dec. 2021
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