FN109号
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イカに見える影。ゲームのキャラクターのようにも見えてきた(2021年8月1日)おでんに見える影。こんにゃくの三角形がないのが物足りない(2021年10月4日)41ひと味ちがう影 8月に入ってからも、影を探しに出かけた。二つの丸でできている標識の影がなぜかイカのような形になっている。丸かったはずの標識は、傘のようにしぼんでしまった。その後、夕方の時間帯をねらって見に行くと、何事もなかったかのように二つの丸い影が、縦に並んで写っている。同じものをあらわしているはずなのに、時間によってこんなにも異なったすがたを見せてくれるのだ。影の自由さを感じた。 いつもは意識しない道ばたも眺めてみる。よく見ると、葉の影がとても細かい。影というと、大きくて真っ黒なイメージだが、これはひと味違う。細い葉の1本いっぽんが丁寧にあらわされていて、葉が風になびくと影もなめらかに揺れる。影がここまで繊細にものをあらわせるとは思わなかった。周りには、ふわふわしていて平面にうつし出すのが難しそうな、タンポポの綿毛やねこじゃらしの影もあった。意外にもくっきりとしている。やわらかなようすは、影の色の濃淡であらわされていた。影はどんなものでもあらわせる。単色で平たんだからと言って油断してはいけない。 * * * 雨の日の翌日、ぬれたアスファルトにうつし出される影や、夜道の街灯の冷たい光によって生み出される影。つくりだす多くの要素の一つが変わるだけでも見えかたは変わる。そして自分の気分までもが、影の印象を変えることがある。お腹が空いていればおいしそうな影になるように、同じ人間でも気分によって影をどう見るかは変わる。 影には無限の可能性がある。影に意識を向ければ、何度見た景色でさえ新鮮に感じられる。影のおかげで、何もないと思っていた帰り道も歩くのが楽しくなった。そして何より、自分のまわりには小さな発見がたくさんあるのだと知る。今までであれば見過ごしていたであろう、日常のなかのささいな風景や変化が見えるようになった。影は、日々を少しだけ、おもしろく豊かにしてくれた。宮崎明音(比較文化学科1年)=文・写真

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