FN109号
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ぐんでパニックになってしまった。寒いなか待合室で電車を待っていたときには、見知らぬおばあちゃんが飴をくれたこともあった。お腹をすかせていた私には、一粒の飴がどんなにうれしかったことか。大きなニュースになるような特別なことではないけれど、私のなかではどれも全部、大切な思い出だ。* * * 電車に乗っていると、何もない一日なんてなかったなあ、と思う。美しい景色を見つけたり、誰かに出会って励まされたり、予期せぬできごとを経験したり。電車が私のちっぽけな一日一日を、楽しいものに変えてくれていた。またいつか、車ではなくあえて電車で移動する日をつくってみよう。ICカードを忘れずにもって、出発時刻をきちんと調べて、と久しぶりに電車に乗る準備を想像して笑みがこぼれた。深沢有佳=文館のようだ。 電車でのゆっくりとした移動時間が、心を落ち着けるひとときにもなっていた。学校で落ち込むことがあっても、電車に乗って悩むうちに寝てしまったり、小さな子どもたちのはしゃぐすがたを見たりしていると、自然と心もやわらぐ。家に着くころには、まあいいか、とご飯をおいしく食べて気持ちよく眠りについてしまっていた。電車での通学時間は単に学校と家とを結ぶだけでなく、気持ちをリセットしてくれる私の大事なひとときだっだ。 さまざまなハプニングに出くわすのも、車より電車に乗っているときが多い。帰宅途中、落雷で電車が長いあいだ停電してしまい、家に帰れず友人と助け合って過ごしたこともあった。寝坊して授業になんとか間に合わせようと特急に乗ろうとしたこともある。そのときは間違えて別の特急の指定席をとってしまったことに気づき、車掌さんの前で一人涙

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