FN109号
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すると、地域にお金を使ってもらうことになる」。豊島さんは「自分の住んでいる場所を楽しもう」、「いいものを提供しよう」とずっと言い続けていた。観光というのは、その地域のすべてのお店が協力しなければならない。全部、自分が楽しむために考えていることなんですけどね、といいながらも河口湖の行くすえを本気で変えようとしているようであった。教育者になりたい これからやりたいことをうかがった。「やることは一つですね。生きる力をつけた子どもたちを育てる、子どもたちが帰ってくる場所を作る、ですかね」と楽しそうにおっしゃる。お店や料理のこととはまた話が変わった。豊島さんのいう生きる力とは、子どもたちに選択肢を増やしてあげることだ。例えば、火をつける方法を知っていれば、停電になったときに火を起こすという選択肢が自分主体でお客さんそれぞれにあった料理をつくることだ。「鉛筆のような人間になれ」という言葉を豊島さんが教えてくれた。それは周りに気(木)を使って芯のとおった人間になりなさい、という意味だ。お客さんを観察し、その人にあった料理を提供すること、いいものを使い素材を大切にしていくこと、は豊島さんを貫く芯になっている。「流されたり、曲げたりするとプロとしてやっていけないです。とくにこんな辺へんぴ鄙な場所でお店をやっているから、こだわりがないと人が来ないです」と真剣に言葉をつむいだ。山梨県は東京都や長野県に行きやすく、観光客がたくさん訪れる。しかし、飲食店の選択肢が少ないためどうしても通過点で終わってしまう、という課題があるようだ。豊島さんは、山梨県には観光としてのレストランが必要である、と熱く語っていた。「山梨のお酒を召しあがっていただき、ホテルにとまってもらう。そう生まれる。山梨県の自然が豊かなことを知っていれば、子育てをする場所に山梨県という選択肢が増える。幼少期に生きる力をつける体験が、人生においての選択肢をより豊かにしていくのだ。豊島さんが考える教育と料理、いっけん関係ないような気がするがそんなことはない。どちらも、「自然と親しむこと」と「自分のフィールドを楽しむこと」につながっている。* * * 「私の目標は店を閉めて教育者になることです。来年、都留文科大学にいるかもしれません」と豊島さんはしめくくった。ぶれない「芯」をもっている豊島さんは、本当に生きる力がつく環境を作ってしまうかもしれない。 プロフェッショナルである豊島さんは、仕事だけではなく、将来の展望にいたるまで全てに一本の「芯」が通っていた。山梨の地鶏を使ったメインディッシュ鹿肉やイノシシの肉を使っているほうとうに似せて作ったパスタこのページの写真はすべて2021年7月22日に撮影しました。8no.109 Dec. 2021

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