FN110号
13/48

のような雰囲気を2人のあいだに感じた。手を振りあうだけかもしれないが、電車で結ばれた関係を羨ましく感じる。あたたかい空間 線路と道路を隔てるフェンスのそばで、お父さんと思われる男性と、小学校低学年くらいの男の子が真剣に駅のホームに目をやっていた。河口湖行きの電車が出発するのを待っているようだ。鉄道マニアのかたなのだろうかと、不思議そうにしていると初江さんが、「八王子からいらっしゃったみたいよ」とそっと教えてくれた。少し遠くでホームを眺めていた奥さんは「本当はここに泊まるつもりだったんですけど、このご時世だからやめにすることにしたんです。でも旦那と息子が電車好きだから、内装だけでも見せてもらおうとおもって」。私と娘は全然わからないですけどね、と笑っていた。その手には昭男さんのやきいもが握られている。八王子の家族は、どうやら旦那さんと息子さんが鉄道ファンつまり「鉄ちゃん」らしい。小さい鉄ちゃんに表情がゆるむ。 ぽ、、、、っぽやには家族連れが多く宿泊する。初江さんにお話をうかがうと、誕生日や記念日に何度も利用する家族も多いようだ。宿泊者がメッセージを書くノートには、鐘ヶ江夫妻に対するお礼の言葉など心が温かくなるメッセージがたくさん並んでいた。夫妻の気遣いやおもてなしがつくる、あたたかい空間が繰り返し来たくなるきっかけになっているのだろう。八王子の家族が、泊まりに来ることを心から楽しみにしていたのもうなずける。電車はつなぐ ぽっぽや0000の前で私は女の子と遊んだり、やきいもが焼き上がるようすを見たりしながら時間を過ごした。気がつけば、小学生・大学生・鐘ヶ江夫妻の幅広い世代がここで談笑していた。私ももとから常連だったように、空間になじんでいる。それも、初江さんや昭男さんの優しさのおかげだろうか。やがて違う小学生が駄菓子屋に入っていったり、八王子の家族はリニアセンターに向かったりと、人が入れ替わり、立ち替わりしている。ぽっぽ000や0の前から人がいなくなることはなく、ずっと誰かの笑い声がこだましていた。* * * ぽっぽや0000には「ただいま」と言いたくなるようなあたたかさがあった。苦しいことがあったら相談したくなるし、楽しいことがあったら伝えたくなる。これも鉄道がつないでくれた縁なのだろう。私もいつか都留を出る。戻ってくることがあったらここに「ただいま」をいいにいきたい。あたたかいやきいもはその時にも食べられるだろうか。公道も走れるよ、と教えてくれた。颯爽と道路を走るSLを想像する写真はすべて1月23日に撮影しました。13

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る