FN110号
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15月とパン通うようになったという。「自宅とは方向が違ったんですけど、仕事で疲れても誰かが自分のために淹れてくれるコーヒーがあると思うと頑張れたし、ご褒美みたいで感動して、そのために通ってたんですよ」と、思い出を語ってくれた。「それに、前のパン屋さんは観光地にあるから、忙しくて自然に触れるなんて時間はなかったなぁ。だから、余計にひーこさんの自然体な感じとか、自然との向き合うしせいに共感して、こんなところでパンが焼けたらすてきだろうなって思いました」と、続けた。「ひーこさん」とはナチュラルリズムのオーナーであり、夫の若わかばやし林英ひでゆき行さん(53)のことだ。 パンの生地は発酵が終わり、ボウルのかたちに膨らんでまるくなっている。もちもちとした生地はまるで月のようだった。ずっと気になっていた満月と新月にパンの予約販売を行う理由を尋ねると、「月を眺めることが好きだからです。月を眺めるきっかけにパンがあったらいいなと思って。それに、曜日が固定しないこともいいなって思ったんです。よく、曜日限定の販売があると思うんですけど、そうすると毎回来られないかたもいらっしゃるかなと考えて、曜日が毎月変わって、定期的にやってくる満月と新月にしようと思いました。じっさい、『今月は無理だけど、来月行けるのを楽しみにしてます』って連絡を下さることもあって、嬉しいです」と、ちあぱんさんは作業台にかかっている月のカレンダーに目をやる。曜日を固定しないのはご自身が飲食店をされているからこその配慮なのだろう。 そして、このことは書かなくてもいいのだけどと、遠慮がちに続けた。「昔、仲の良かった友人が亡くなった日が満月で、その月がとてもきれいでね。もともと月は好きだったけど、それからは、月を見ると、その友人が笑顔で応援してくれている気がします」と、月に思いを馳せた。私も、何となくだが夜出かけたときは月を見てしまう。満月は強い輝きに圧倒され、輝きが控えめな三日月は消えかかる炎をみているかのようで切なくなる。字のごとく、月の変化で月日を感じられるのだろう。ちあぱんさんも「月って、毎日同じようだけど、一日経っただけで、欠けてるってわかるんだよね。そう思うと、一日の変化って大きくて、毎日大切に生きようって思うなぁ」と、しみじみと続けた。 出産を経て、一時はパン販売を休んでいたそうだ。現在は、満月と新月のペースという無理のない範囲で続けている。「パン作りは好きだけど、子育てもあるから毎日はしんどくて。疲れやすくなってることも確かだから、等身大のパン河口湖のパン屋さんで試作を何度も作ったアンチョビオリーブのフーガス。思い出のパンの1つだという(2022年1月18日)

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