FN110号
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21↑八王子神社(③)のイチョウの木。皮のもようが馬の顔に見えた(2022年1月14日)左が生出神社(⑦)、右が八王子神社(③)の手水用の水が出る龍。よく見るとすこしずつ違うところがある(2022年1月25日)らそこだけ真っ青な空が見える。最初は怖さを感じていたはずなのに、もう心地よい空間になった。やわらかな風にあたりながら写真を撮りつつのんびりとすごす。帰りの階段も行きとは違い、木漏れ日がきらきらと階段を照らしてくれているように思えた。少しの時間だけでも、印象が大きく変わった。あのとき、足を止めていたらできなかった体験かもしれないと思うと、少しだけ得をした気分になる。 神社からもう一度道路のほうに戻って歩く。川が流れる音と、川沿いの竹藪がさやさやとゆれる音が聞こえ、夏にここを通ったらきっと気持ちがいいだろうと思う。ここでも季節を先どりしたようだ。途中で右に曲がり、坂を登ると浄泉寺に着いた。 駐車場からは富士山がよく見えたが、都留市が見下ろせるという思い描いていた景色わけではない。見渡すと上のほうにも道路があり、保育園の子どもたちの「やっほー」という声が聞こえてきた。富士山に向かって山びこをしているのかもしれない。そう思い私もきつい坂を登っていくと、坂の途中で一気に視界が開けた。よくよく観察してみると?道を歩くなかで見つけた、じっくり見てみたくなるような写真を集めました そこは川茂発電所や都留のまち並み、さらには遠くの富士山を一望できる場所だった。坂を登り荒れた息を整えるために、大きく息を吸い込む。視線を横に動かすと都留の山の連なりも見渡せた。そんな場所を独り占めしているようだ。登った達成感と場所を見つけられた満足感にひたっていると、上のほうから話し声が聞こえてきた。この場所を知っている人は何度も訪れたくなってしまうのだろう。景色を目に焼き付け、その場所を譲った。* * * 赤坂駅から禾生駅の駅間は、静かだからこそ気づかせてくれるものがあった。たくさんある神社やお寺が、心を落ち着かせてくれる。生きものの変化に目をこらすと、季節が移ろっていることを教えてくれた。まちの人びとがおしゃべりする声や、すがたの見えない鳥の声、木々が揺れる音もよく聞こえてくる。いつもは目的地を目指してイヤホンをしながら歩いてしまう。しかし、行く先を決めずに自然のものに目や耳を向けて歩く道は、いつもなら通り過ぎてしまうような小さなことにも、好奇心が湧いてくる道になった。

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