FN110号
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25第30回尾県郷土資料館祭りのようす。最近は感染症の影響で開催できていない(尾県郷土資料館=写真提供)宮崎明音(比較文化学科1年)=文・写真ひとつ思いが込められているのが伝わり、ついつい頬がゆるむ。社会見学に来たことで山本さんと顔見知りになった子どもたちは、何度もここを訪れるという。資料館の2階の展示室で遊んだり宿題をしたりする子どももいる。2階から聞こえるはしゃぎ声や遊具で遊ぶ彼らのようすからは、資料館がみんなにとって安心できる、気楽な場所なのだと分かる。久しぶりに帰省した人が「帰省ついでに」と寄ることも多いらしい。地元を出た人たちにとっても、懐かしさと安心感のある、ひとつの帰る場所になっているのかもしれない。資料館とともに生きる 資料館へ行く途中に、井いのうえとしこ上敏子さん(70)というかたに会った。井上さんは、尾県郷土資料館協力会の会長をしておられる。井上さんのお父様は、資料館にかかわる本を出版するなど、資料館のために活動をされたかただ。そして井上さん自身もずっと、資料館の近くに住んでいる。年に何度かは、協力会のみなさん総勢52人で資料館の草むしりをしたり花を植えたり、たまにはイベントをおこなったりするそうだ。手打ちうどんをふるまうイベントでは子どもたちもたくさん訪れた。協力会のメンバーは高齢のかたが多く、92歳のかたまでいらっしゃるという。地域のかたがたがコミュニケーションをとれる大切なかかわりとなっているのだろう。 高齢のかたにとっては、草むしりを手伝うことだけでも「自分は役に立っているのだ」という感覚になれるそうだ。「資料館があるからこそだよ」と語気を強める井上さんに、資料館の存在が本当に多くの人の支えになっているのだとあらためて実感した。地元の人みんなで資料館を守っていきながらも、その存在に励まされているのかもしれない。      * * *  それぞれ違った地域に住むお客さん、資料館で学んだ地元の大人たち、そして資料館の歴史や意義をまったく知らない小さな子どもたちまで、ここにはたくさんの人が訪れる。資料館にお世話になった人はずっと資料館を気にかけ、同じ思いを持つ人びととつながり続けることができる。そして資料館の存在が人と人との新しい出会いを生み、山本さんがその出会いからつながりを広げていく。 私自身、初めて資料館に訪れた目的はドラマでつかわれた資料館をみるためだった。けれどその後は、山本さんとお話ししたくて資料館に足を運ぶようになった。資料館に行くと、お客さんや地元の人との新しい出会いがあるから、それに胸を弾ませながら資料館までの坂をのぼった。 私にとっても資料館は、新しい出会いをくれた場所であり、ふとした時に寄り道したくなる心地よい場所だ。

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