FN111号
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no.111 Jul. 2022 自然そっくりにつくる 「安心して食べられる飲食店があるといいなぁ。笑顔になってもらえる食事を出せたらいいなぁ」と食への想いを語るのは「自然の実り農園」代表の山やまぎし岸剛つよしさん(51)だ。剛さんの優しい声と柔和な笑顔が、曇りの天気に明るく映える。 山岸さんはお父さんの忍しのぶさん(76)と一緒に都留市小おの野で自然薯を栽培している。じね44んじょ444亭は、剛さんと忍さん、お母さんの淑よしえ江さん(76)の3人家族で経営しているお店だ。メニューはすべて「自然の実り農園」で山岸さんたちが作っている自然薯を用いて開発されている。 自然薯は山に自生しているヤマノイモだ。日本だけに生息しているイモだそうで、細いツルを伸ばしながら生長する。人の手で栽培するときは、プラスチックのパイプのなかで育てることが多い。そうすることで、枝分かれのないまっすぐな自然薯をつくることができる。しかし、山岸さんはあえてパイプを使わない、自然に近い栽培方法を採用している。「パイプで育てるとね、自然薯を食べているのに味がしないものになるんです。パイプのなかの養分しか吸収できないから。やっぱり体全体が土にふれているものは風味や栄養価がぜんぜん違いますよね」。これが山岸さんの一番のこだわりだ。 自然によせた栽培はのびのびと育てることができるが、そのぶん収穫に手間がかかる。1.5メートルから2メートルまで生長することのある自然薯は、最終的に機械ではなく手で収穫しなければならない。「パワーショベルで掘れないところまで来たら、あとは化石の発掘のように丁寧にとっていきます」と教えてくださった。剛さんは簡単そうにお話しするが、想像するだけで骨が折れる作業だ。本当に安心できるもの 剛さんはもともと地元の東京で飲食やハーブといった食に関する仕事についていた。体を自然に整えることをやりたかった、という剛さんの考えには当時の食をとりまく問題が関係している。道どうし志村で畑を始めた17年ほどまえ、外国から輸入されている野菜に多くの農薬が使われていることがわかった。綺麗な見た目を求めるあまり、人間の体に悪影響があるかもしれない野菜が生まれてしまったようだ。これは海外だけの問題ではない。日本の野菜も本当に安全なのか、山岸さんは疑問に思ったという。「本当に安心してもらうためには、自分で作らないといけないですよね」と剛さんは穏やかに話すが、食を提供する者としての責任が感じられる。 畑をやっていた最初の4年間は、天候や風土の問題、イノシシによる食害、生育障害によってほとんど収穫がなかったようだ。それでも、出荷できないほど小さな自然薯を食べ「道の駅つる」でも販売されている。おすすめの調理方法は「じねんじょの刺身」だそうだ
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