FN111号
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no.111 Jul. 2022 はなだより 私が花の写真を撮るのは、決まって満開のときだ。自信に満ち溢れて咲き誇っているそのすがたに心惹かれて、見るたびに元気づけられる。 5月の快晴の日、開花時期を迎えたサラサドウダンという花が私の家の庭を彩る。近くのチューリップやキクが上向きに咲くなか、この花は下向きに咲く。下向きと聞くと、ネガティブなイメージがある。しかし、この花は暗さや悲しさを感じさせることはなく、ほのかに優しい光を放って咲いていた。花の一つひとつは、虫たちが歩く道を照らす街灯のようだ。花の色鮮やかさに心惹かれて、じっと見つめた。慌ただしく飛んでいたハチも動きを止める。花の先端が5つに分かれていて、ピンク色の縦線があることに気がつく。閉じていた傘をぱっと開いたときのようにまっすぐな線だ。あまりにも均等に並んでいた線に圧倒された。花にそっとふれると、なかにはアリがいて、あたまやおしりがチラチラと見え隠れしている。無邪気にかくれんぼをしていた子どものころに戻ったような気持ちになった。 花が散るのと同時に春も終わりを告げる。サラサドウダンは花が落ちて緑一色となった。もう満開だったころのすがたを見ることはできないのだな。花のしおれたすがたを見て、私の心もしぼんでいく。しかし、ふと足もとを見ると、しおれたサラサドウダンと色味が似ている、赤みを帯びた葉があった。花がしおれたときにしか出すことができない色との出会いに、胸が高鳴る。 サラサドウダンの葉には丸い虫食いの跡がたくさんあった。春のあいだ、われ先にと虫たちが葉を取りあっているようすが目に浮かぶ。この葉は秋になると紅葉するそうだ。ど原優希(国際教育学科1年)=文・写真同じピンク色の花でも、色の濃さの違いを楽しむことができた(2022年5月11日)春のそよ風に吹かれるサラサドウダンは、風鈴のように軽やかな音色を響かせそうだった(2022年5月7日)のような色になるのだろうか。漆うるし塗りの朱色や真っ赤な口紅の色を思い浮かべては、一足先の秋が待ち遠しくなった。 サラサドウダンから、花の美しさや楽しみかたは一つではないことを教わった。あのしおれた花の色味を忘れることはないだろう。そして、「最後まで輝きつづけるから見ていてね」。そんな花からのメッセージを受け取ることができた。私も最後まであきらめずに頑張ろう。サラサドウダンに励まされて、新たな一歩を踏み出すための勇気をもらった。
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