FN111号
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巣から顔を出す雌のツバメ。昼間でも巣のなかでじっとしていることが多くなった(2022年5月18日)ツバメの巣。外側は頑丈に、内側はふかふかになっている(2022年5月14日)ツバメ日記渡邊結佳 (国文学科1年 )=文・写真 入学式のころよりも、吹く風が暖かくなってきた。栃木はそろそろ田植えの時期かな、と地元のことを少しだけ思い出す。このまちに来てから約1か月が過ぎようとしている。 4月の後半、天気がいいので散歩に出かけた。自然豊かな都留のまちを歩いていると、目に映る景色を黒い点が横切る。ツバメだ。日本には夏鳥としてヒナを育てるためにやってくる。この季節にしか会えない鳥の行動は私の興味をくすぐった。その日からツバメをじっくり観察してみることにした。 観察できそうな巣は3か所ある。本学の国際交流会館入口と、その向かいにあるモスバーガーの店舗の壁、それから私の住むアパートだ。ツバメは巣とヒナを天敵から守るため、民家に巣を作るらしい。こうした知恵はいつ身につけたのだろう。観察していると、ペアで行動していることが分かる。巣を作るときも、羽を休めているときもいつも一緒だ。アパートの手すりにとまり、さえずり合っているすがたは人間と同じで会話を楽しんでいるように見える。 5月に入って国際交流会館にようすを見に行くと、巣が落ちてしまっていた。あと少しで完成だったのにと思い、悲しくなる。巣を覗いてみると、お椀の形をしていて外側は泥で固められ、内側には柔らかい枯れ草が敷き詰められている。その複雑さに驚いた。ただの泥のかたまりではない。ヒナを育てるための工夫がしっかりとなされている。 数日後の夜、大学からの帰り道でツバメを見かけた。眠っているのか、私が近づいても動かない。胸のあたりの羽をふわふわと膨らませ、じっと座っている。するとツバメがくちばしをぱっくりと開けて、あくびをしたように見えた。思わずふふっと笑ってしまう。「おつかれさま」。そっと声をかけると、ツバメは眠たそうに再び羽に顔をうずめた。 5月の中旬、モスバーガーの店舗にある巣はきれいなお椀型に完成した。これから子育てが始まるのかと思うとわくわくする。気がつくと、私はツバメの生きものらしさにくぎづけになっていた。表情は豊かだし、生活は生きるための工夫にあふれている。今日はどんなすがたや表情に出会えるだろう。好奇心に背中を押され、私はまた散歩に出かけることにした。

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