FN111号
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no.111 Jul. 2022 みえる世界が広がった霧に包まれた都留アルプスの尾根を進む。そこには野生動物たちの世界が広がっていた(2022年5月10日)1週間登ることができたのは、このヤマツツジのおかげだ。そのすがたに毎回、励まされた(2022年5月12日) 離陸するジャンボ機や油あぶらやま山牧場を眺めながら、福岡で過ごしてきた。そんな私が都留に来て驚いたのは、富士急行線からみえる景色だった。「山には雪が積もっとる。落葉もしよるけん、寒いったいね」。数週間後、木々は一斉に新緑へとすがたをかえた。その成長を間近でじっくり観たいと思い、本学のキャンパス裏にある遊歩道、通称「都留アルプス」で一週間観察をすることに決めた。  ルートは「うぐいすホール」の横から登り、楽山公園へ降りる1時間ほどの行程だ。初日、5時半に起きて山へ向かうも登山道を見失ってしまった。「まずい、来た道を引き返そう」。地図を確認し、予定していたルートに合流する。薄暗く、ひとけのない山道を一人で進むのは怖くて、観察を続けられるか不安になる。なんとか、都留アルプスの最高峰713メートルにいたると、新緑のなかにひときわ目立つ韓からくれないいろ紅色の花が目に映る。今にも花を咲かせようとするその木はヤマツツジだった。  前日にシカの食しょっこん痕を発見していた3日目の早朝、山は霧に包まれていた。登って数分が経過したころ、鳴らしていたクマよけの鈴の音が聞こえたのか、2頭のシカが走り去っていった。都留アルプスは人にも野生動物にも開かれている。昼は人に、夜は動物にというように、人と動物には適度な距離感がある。早朝はまさに、その境となる時間だと感じた。 転機となったのは、初めて昼に山へと向かった4日目だった。輝く太陽の下を歩いていると、これまでの警戒心が次第に消えてゆく。植物が芽吹き、虫や小鳥が飛ぶすがたを全身で受け止めることができた。そうしてはじめて、視界が広がった。あんなところにキノコが生えている。あっちにも、こっちにも。さらに、朝のほうが鳥たちは盛んに鳴いていることにも気がつく。5日目に大きく開いたヤマツツジの花はそんな私の気持ちを表しているようであった。蜜を吸いに来たクマバチに何度も遭遇するが、もうそこに怖さはない。 雨が続いた6日目を空け、ようやく迎えた最終日、山へのお礼としてゴミ拾いに行く。ふと気がつけば、山に登る前に「おねがいします」とつぶやいていた。何度も登ったが、同じ道を歩いた感覚はなかった。それは、毎回、新たな発見があったからだろう。その発見とともに、みえる世界が広がって行くのを実感できた一週間となった。村井開 (地域社会学科1年 )=文・写真

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