FN111号
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no.111 Jul. 2022 「生きかたとしての農業」は都留市夏なつがり狩で有機農業を営む、秋あきやまえいじ山英治さん(55)、美みわこ和子さん(48)の言葉だ。それはどういうことなのだろう。授業でこの言葉を聞いた私は、もう一度お話を伺いながら、考えてみたいと思った。髙橋杏佳(地域社会学科3年)=文・写真「農家は私の敵」  秋山英治さんはさまざまな職業を経験されたのちに、2‌0‌1‌0‌年に都留で農業を始めた。しかし英治さんは、それまで野菜をほとんど食べられなかったそうだ。「大嫌いな野菜を作る農家は私の敵だった」と笑って話す。大人になってから、農薬や化学肥料を使わない循環農法という方法で作った野菜を食べる機会があった。すると「なぜか食べられちゃったんだよね。はじめておいしいと思っちゃったんだよね」とおっしゃった。その驚きが英治さんを農業へと突き動かした。 その2年後、英治さんの師匠のもとで弟子として学んでいた美和子さんと一緒になり、二人での農業が始まったそうだ。美和子さんは大学卒業後の進路に悩んでいたとき、自然と触れ合っていた幼いころを思い出したという。「生きかたとしての農業が私にはあってるんじゃないかなって」とおっしゃった。この言葉が私の心に響いた。お金以外にも大事なものがあるのはわかるけれど、それが何なのか自分にははっきりとわかっていない。「生きかたとしての農業」には、お二人なりの答えが隠されている気がした。全身で感じる自然 作業を見せてもらいにハウスに行くと、ピーマンやトマトなどの夏野菜を育てているところだった。おもに野菜を育てている美和子さんは、市販されているような苗は使わずにわざわざタネから育てている。大きいものでも10センチほどしかないような苗がポットで育っていた。毎日、ハウスと苗温床のビニールの開け閉め作業をおこなう。これをしなければ、夜に気温が下がる都留では苗が枯れてしまうという。いっぽうで、温床にしまっておけば、有機物が発酵する熱で、温床内の温度が30度まであがるそうだ。自然の力だけでそこまで温められることに驚いた。この作業を毎日おこなうのは手間がかかる。美和子さんは「それでもやっぱりタネから育てたほうがかわいいんだよね」とおっしゃった。自分で育てた苗から野菜が採れたら、愛着が湧きそうだ。 もう一度作業を見せていただくために秋山さんのところへ向かった。畑にいくと、2週きかたとしての農業生10センチほどの苗。5月中旬になると、畑へと移る(2022年4月28日)

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