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14141414no.112 Dec. 2022青いクルミ 宮沢賢治の故郷である私の地元では、小さいころから文学作品に触れる機会が多かった。『風の又三郎』に「青いくるみも吹き飛ばせ」という一節がある。通っていた小学校の壁にその一節が描かれていて、どこか誇らしい気持ちになった。国語の授業で音読をしたとき、周囲の友人が私を見てきて少し恥ずかしかったのも懐かしい思い出だ。 そういえばクルミの木をしっかり見たことがあっただろうか。宮沢賢治の作品に出てくるということは身近にあったはず。クルミと聞くとナッツの一つで、食べものとしての印象が強い。あるとき、キャンパス内にクルミの木があることを知った。見に行ってみると樹高6メートルほどの木がある。この木は高木になると聞いたことがあるので、まだまだ生長しそうだ。木材としてのクルミ クルミが一体どんな木であるのか、知らないことばかりだ。木材としての特徴を、本学美術教員の青あおきひろき木宏希先生(49)に聞いてみる。「私が教えられることでよければ協力させてください」と快く受け入れてくださった。青木先生によると、木材としてのクルミはとても扱いやすいという。木は刃物を使って加工されることが多い。人の手の代わりに使われる道具との相性は、木と人との距離を表している。とくにクルミは道具との馴染みがいい。クルミの木は人に近い木だからこそ、昔から生活のそばにあるのだ。 クルミの材質はしなやかで、ゴツゴツしていないことから女性のようだという。「木に男も女もないんだけどね。クルミは柔らかい感じがするから」。長きにわたって触れてきた青木先生だから感じ取れる木の雰囲気があるのだろう。 木は、木材として使えるようになるまで7年以上置くそうだ。その期間に水分をとばし乾燥させる。多くの木は、その段階で「狂い」といった歪みが生じる。しかしクルミはそれが少ない。青木先生に理由を尋ねると、クルミには油分が多く含まれているからだそう。 扱いやすさがあるぶん需要が高まり、たくさん消費されてしまっているという課題もあるという。人間はよい木材と聞くと、つい取り尽くしてしまう。木は10年でわずかな生長しかしない。「これからは、私たちの生活と自然との関わりかたを考えていかなければならないですね」と青木先生は真剣な眼差しで話してくださった。適材適所 これなんですけど、と青木先生が見せてくださったのは、蜜みつろう蝋とクルミ油を混ぜて作ったワックスだ。木工の仕上げに使うワックスは、強い匂いや、ピリピリした刺激が生じることがある。これは自然のものでできているため、直接肌に触れるものや口に入れるもの「これは阿部さんの木ですね」と紹介してもらったクルミの木。今まで自分と同じ名前のこの木について、知ろうとしてこなかった。材木として、油として、動物たちの食材として、さまざまな姿を見せてくれる。近いようで遠い存在だったクルミの木に触れてみた。阿部くるみ(地域社会学科3年)=文・写真辻口いづみ(地域社会学科4年)=写真しるべの

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