FN112
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16161616no.112 Dec. 2022て何度もカンナで削って微調整をしていく。青木先生が慣れない作業だから休みつつやってくださいね、と声をかけてくれた。その言葉で、また体に力が入っていたと気づく。何かに集中すると周りが見えなくなるのは昔から変わっていないな、と少し反省した。 いよいよ箸の形へと整えていく工程だ。箸は食べものを掴みやすいよう、先端が細くすぼまっている。木材の二面を使って、その形に削るための基準線を下書きした。だんだんと細くなる形を、根本と先端で削る回数を変えていくことで調整する。カンナの使いかたのコツをつかんで、木くずもくるんと綺麗に丸まってきた。青木先生からも「よくなってきましたね。道具との距離がぐんと縮まって馴染んできてますよ」と言ってもらえた。ほっとしたのも束の間で、ふだん使わない腕の筋肉が悲鳴を上げてきた。中腰でいるから腰も痛く、筋肉痛を覚悟した。わたしの箸 だんだんとゴールが見えてきた。つぎは2本の高さを整える。どの面でも同じになるよう、こまめに合わせながら調整する。これがとても難しい。同じように作っていたはずがこんなにもずれていたとは。こんなところに私の大雑把な性格が出る。最後の調整は青木先生がしてくださった。そうしてすぼみの丸みを出す作業に入る。四角柱の中心に一本の軸が通っているイメージで回数を決めて削るといいですよ、と青木先生は的確でわかりやすく話してくださる。 助言をもらったとおり慎重に削り、ヤスリで仕上げていく。目の荒いものから順番にかける。どんどんとなめらかになっているのを何度も手で確かめた。そして「一ひとあたはん咫半」という伝統的な寸法にする。これは人差し指と親指を直角に広げた長さが「一咫」で、その1.5倍の長さのことを指す。私の手の大きさに合わせ21センチで作った。 仕上げに、以前見せてもらったクルミ油を塗っていく。二、三度塗り込んでいくことで光沢が出てしっとりとした触り心地になった。やっと完成だ。はじめはもっと時間がかかるかと思っていた。しかし時間を忘れるほど集中していたからか半日で出来上がった。少し細身だが、世界で一つ、私だけの箸だ。* * * 出来上がった箸を使って、炊き立てのご飯をいただく。お茶碗は小学生のときに陶芸教室でつくったものだ。いつもより美味しく感じるのは、思い出が加わったからだろうか。自分をつくる大切なものがまた一つ増えた。 削っていると手に木の感触が伝わってくる。焦ったり、力が入ったりするとクルミにはお見通しのようで、うまく削れない。クルミは人との距離が近く、柔らかで素直な木であることを知った。自分を見失わないよう、クルミの木を大切な道しるべにしたい。出来上がった箸。左右の形が少し違っていて、手づくりならではの温かみが感じられる(2022年11月4日)
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