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風を纏って軽やかさ 富士山と桂川を一度に眺めることができる橋をわたり終えると、重厚な石塀と立派な庭が見えてくる。敷地のなかには、趣のある建物と一緒に、ぱっと目を引く白を基調とした建物がある。その壁には「MUTO」と英語で書かれた看板がつけられていた。 出迎えてくれた武むとうひでゆき藤英之さん(67)は、地域の野球クラブに選手として所属しており、快活な話し口調と明るい笑顔が印象的だ。「『我に立つ場所を与えたまえ、さすれば世界を持ち上げる』この言葉が好きだね」と話す武藤さんは、世界を舞台に躍進する「武藤」の社長だ。 「武藤」はもともと、糸を買って、織る作業は委託し、できあがったものを販売に行くという業態をとっていた。しかし今では、糸を撚よる作業から製品として販売するまでのすべての工程を行っている。撚ねんし糸・整せいけい経・製せいしょく織が行われている工場では、ワインダー、撚糸機、整経機、織機といったさまざまな機械が並んでいて、糸が生まれ、織物というすがたへと変わっていく一連のようすを眺める富士五湖地域は「郡内織物」で有名な織物の産地だ。富士山の清らかな雪解け水は良質な織物産業を発展させた。郡内織物産業をおこなう機はたや屋の1つに、伝統的な技術を大切にしながら、独自に進化を遂げるブランドがある。それが、桂川のほとりにある「武藤」だ。

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