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ことができる。織機は最新のものではなく、あえて昔ながらのシャットル織機をつかっている。シャットル織機のバッタンバッタンという規則正しい音が工場内に響きわたっていて、隣にいる武藤さんがその音に負けないよう声を張って説明してくれる。「今のものは速さ重視だから、開口幅(※)が小さくなって糸の間隔がきつくなる。だけど昔のものは開口幅が大きいから、時間はかかるけどふんわりする」。「武藤」の織物の空気のような軽さの秘訣はここにあった。 それ以外にも後の工程で、あらかじめ糸と一緒に織り込んでおいた水溶性ビニロンを、ワッシャーと呼ばれる機械で溶かす。織る工程では細い糸が切れないような強度を持たせつつ、それを溶かしてしまうことで、できあがった製品にはその分の重さが含まれないようになっている。じっさいに出来上がったストールは、首に巻いているのを忘れてしまうくらい軽く、肌触りの良さのとりこになってしまう。世界を駆ける 「武藤」はこれまで羽毛布団や服地といったさまざまな種類の織物に挑戦したという。しかし失敗も多く、試行錯誤を繰り返していた。そんなある日、武藤さんは新聞を読んで、ストールがブームになっていることを知ったそうだ。「それでストールに挑戦してみたら、ちょっとだけ成功したね」と、武藤さんが笑って言った。そこから「武藤」はストール製品に力をいれ始めた。 厳正な審査を通過しなければ出品することができないフランスの展覧会、プルミエール・ヴィジョンへ出品するなど、パリへ8回、イタリアへ5回、アメリカへ数十回と、ストールとともに世界各地をめぐった。 「世界一の織物」を目指す武藤さんに、「もうすでに日本一を獲ってしまったから、世界一を目指しているんですか」と尋ねた。すると、「日本一にはなってないよ。でも、日本一じゃ意味ないと思うんだ。世界一じゃないと」と武藤さんは答えた。それはストールを作り始めた当時、バブル景気で世界の織物が日本に多く入ってきたことが関係しているそうだ。最初から世界を意識せざるを得ない状歴史を感じさせるシャットル織機(2022年9月25日)撚糸機が絶えず糸を巻いている(2022年9月25日)※開口幅:経糸が上下に開いた時の差

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