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況にあったのだというが、それでも武藤さんの挑戦への熱意や向上心は人並みではない。武藤さんは、世界一の織物をつくるためにはまず、世界一細い糸が必要であると考えた。細い糸をつくるため、大きな紡績会社へ乗り込んで直談判したそうだ。当時はまだまだ新参者であった武藤さんはやっとの思いで交渉し、世界一細い糸の織物を作り上げた。しかし、世界の市場に持って行くと、「外国人は扱いが雑だから、こんなに細い糸だとすぐだめになってしまう」と現地の人に言われてしまう。そこから試行錯誤し、世界一の織物とは、細い糸を使って空気を含ませながら、密度の濃いものをつくることではないかと考えついた。 「糸の太さ」、「組織」、「密度」が織物において重要な三つの要素であると確信した武藤さんは、その要素を大切にしながら織物を作っている。また、「中小企業は強みがいるよね。特別な存在にならないと」と、独自の技術を極めていくことの重要さを語った。テゲ 武藤さんは今では織物の製造に直接携わっていない。2人の息子さんに任せているそうだ。武藤さんは、「社長」、「長」という存在について「一番上の人はどっしりと構えていなくちゃいけない」と言った。「薩摩に『大テゲ概』っていう言葉があって、『親分』っていう意味なんだ。子分の自信をつけさせるために手回しすることを言うんだよ。親分は表ではどっしりと構えていなくちゃいけないけど、裏では子分のためにあれこれやっているんだ」と語った。私もこれから「長」という立場になることがあるだろう。その時はこの長岡芽依(国文学科2年)=文・写真言葉を思い出して、「長」と呼ばれるに恥じない人でありたいと強く思った。* * * 武藤さんは風に溶けていってしまいそうな軽いストールを生み出したのとは裏腹に、強く揺るがない芯を持っていた。それは「武藤」の織物が、伝統的でありながら、独自のスタイルを確立し、それを貫いているところに通じているのかもしれない。また、「武藤」は、今まで主力としてきたスカーフだけではなく、衣服や家具など新しい製品に挑戦している。SDGsの活動にも積極的に取り組んでおり、ここにも武藤さんの挑戦を恐れないすがたや向上心があらわれていた。 いつの間にか現状に満足して、探究心を持つことを忘れていたかもしれない。武藤さんが世界の舞台を駆けるように、私も高みを目指す姿勢を忘れないでいたいと思った。もしも、現状のままでいいのか迷いがあったら、勇気を持って新しい世界に一歩踏み出したい。今はまだ知らない世界を恐れる必要はないと気づかされた。色とりどりのストールを見つめる武藤さん(2022年9月25日)

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