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3232no.112 Dec. 202232は単作なのね」と晴子さんは語った。二期作のところでは、年に2回新そばの粉が手に入る。だが、北海道の場合は秋の1回きりだそうだ。北海道でつくられた単作のそば粉はなぜ美味しいのだろう。理由が気になってお二人にうかがった。すると和男さんは、「理屈なんかないよ。ただ美味いんだ」と言葉にした。つづくようにして晴子さんも、「食っていうのはさ、その人その人で全部(好みが)違うことだよね。……だからやっぱし、つくる本人が美味いと思ったものを(出す)」とおっしゃる。 食材選びのこだわりはそば粉だけにとどまらない。天丼に使われていたミョウガは都留市のもので、エビやホタテなどの海産物は北海道から仕入れている。晴子さんは「(和男さんが仕入れに)毎日行って、自分の目で見て。……ものを見なければ買わない」と力強く言い切った。 手づくりということも意識しているようで、小鉢に入っていた梅干しはお店で漬けたものだと誇らしげに話してくれた。また、冬限定のメニューであるアンコウ鍋にも、和男さんが吊るし切りをしたアンコウを使用しているという。アンコウの吊るし切りはお客さんのあいだでも人気で、孫を呼ぶからまだアンコウを下ろさないでくれ、と頼む人もいるそうだ。どうやら、11月の終わりごろから入荷が始まるらしい。じっさいに吊るし切りのようすを見て、私にとっての新たな冬の風物詩としたい。 美味しさにはっきりとした理屈はないということがお二人の考えだった。それでも、い志ばしへやって来るお客さんはみな満足してアンコウの吊るし切りで使用される鎖。吊るされたアンコウには異様な迫力があるというミョウガなどの天ぷらが乗っていて、箸がどんどん進んだ。すっきりとした酸味の漬け物は、油っこくなった口のなかを整えてくれる。優しい甘さの卵焼きも絶品だった。大満足で、あっという間に食べきってしまった。い志ばしの隠し味 食後に新そばについて尋ねると、北海道産のそば粉からつくられていると教えてくださった。「こだわりがあって、北海道の場合
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