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針を進めていく。しかし、初めてのダーニングに緊張しているのだろうか。それとも浮き足立っているのだろうか。どうしてもはやる444気持ちが抑えられない。早くはやく、と手が焦ってしまった。おかげでタテ糸の間隔がバラバラになったり、布がよれてしまったりとなかなか思うようにいかない。思い通りにならない自分がはがゆくてたまらなかった。 いったん手を止め、眞響さんにアドバイスをもらう。不思議と、眞響さんのあたたかな笑顔を見ると、気持ちが和らいできた。ふう、とひと息ついて作業を再開する。今度はゆっくりと進めることができた。しばらく集中して縫っていくと、しだいに満ち足りた思いがわきあがってくる。これが眞響さんが話していた繕いの楽しさなのだろうか。さっきまでただわかる気がするようなものだったのが実感へと変わる。楽しいという感情がじわあ、とあふれ出して身体にしみていった。力を抜く 眞響さんに今後やりたいことをうかがうと、すぐに言葉が返ってきた。「ちょっとでも自分のつくったものが生活のなかにあったら、暮らしが豊かになるんじゃないかなって思うんだよね。そういうのを多くの人に知ってもらえたらって思って」。しっかりとした信念をもちながらも、そこに気負いは感じられなかった。そういえば、と繕いの魅力について尋ねたときのことを思い出す。眞響さんは「楽しい」という言葉を何度も口にしていた。楽しいからやっているのだと話す眞響さんに頑張ろうという力みはない。どこまでも自然体だった。 そうした眞響さんのすがたがあったからこそ、私はダーニングに惹かれたのだろう。決して押しつけがましくない「楽しい」がやさしく背中を押してくれていたのだ。 楽しいからやる、というのは、ふと忘れやすく難しいことだ。周囲の評価を気にしていると簡単に見失ってしまう。だからこそ、「楽しい」からと何かに打ち込んでいる人は格好いい。「楽しい」は人の評価を気にしない強さをもち、周りの人をも巻き込む大きな力になる。きっと「楽しい」に勝るものはないのだろう。37基本のダーニング①布を固定する。今回は固定するさいに、あらかじめ印をつけておいた。固定にはダーニングマッシュルームという専用の道具を使う。おたまやマトリョーシカなどでも代用できる。③ヨコ糸を通す。タテ糸を1本おきにくぐらせながら、糸をわたらせる。織物のような感覚で隙間なく奥へとつめていく。途中で糸の素材や色を変える工夫をしてもいい。②タテ糸を通す。補修したい部分を覆うようにし、5ミリほどの間隔を空けながら糸をわたらせる。間隔はヨコ糸の太さに応じて変える。糸の素材も繕うものの素材によって変える。④糸の始末をする。おもて側に出ている余った糸を裏で束ねたり、縫い目に入れこんだりする。そのため糸結びが苦手でもできる。40分ほどで完成した。写真はすべて2022年11月15日に撮影しました。①④③②西佐和子(比較文化学科1年)=文・写真
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