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39「勢ひあり 氷消えては 瀧たきつうお津魚」 田原の滝の氷柱が消え、富士の雪解けで増水した桂川の清流におどる魚とともに、春を喜ぶ心情を詠んだ句である。 ほのかな金木犀の香りが私を包む。都留へ来てから金木犀の香りに出会うことが多く、心がやわらぐ。夕陽に照らされながら田原の滝を目指した。目的地に近づくにつれて、帰宅する車の音をかき消すように滝の音の響きが強くなる。到着して足を踏み入れた途端、滝の音が全身を包み込んだ。 芭蕉像の横のベンチに腰かけ、私も滝を眺める。滝ならではの涼しさや音が、頭のなかのもやもやをスッキリさせてくれた。 田原の滝の過去が語られた看板を見つける。かつて田原の滝は上下二段だったが、滝の後退や砂防ダムの整備により、滝のすがたが変わってしまった。しかし、平成21年に景観形成が行われたことで美しい柱ちゅうじょうせつり状節理を取り戻したそうだ。過去の滝のすがたを取り戻そうと尽力した人びとの努力によって、現在まで田原の滝や都留の自然が守られているのだろう。 滝の勢いは止まることがない。滝の下を眺めると、透きとおった水が流れていて、底にある岩も見える。水しぶきが夕陽に照らされ、いっそう輝いて見えた。これから秋から冬へと季節が変わる。滝だけでなく、滝のまわりもどのように変化していくのか楽しみだ。* * * 都留へ来てから山や植物、滝が身近で当たり前の存在になっていた。そのためか、山の色合いや季節によって変化する空気などを意識することが少なくなっていたと気づく。句碑をとおしてこれらをもう一度見つめ直し、自然の力でしか生み出せない音や温度を身をもってあじわうことができた。当時、芭蕉が見た都留の自然のようすや人びとの暖かさなども句碑をとおして知り、より都留というまちが好きになった。 当時と現在では、自然のありかたが変化した部分もあったが、時代とともに変化する自然も私たちの心を動かしている。今度は句碑巡り以外で都留の自然を見つけるために、歩いていきたい。①月待ちの湯の暖簾(2022年10月9日) ②東漸寺の句碑。虫の声が火照った身体を落ち着かせた(2022年10月9日)③田原の滝。句碑巡りをした10月はまだ緑色だった木々が、11月になって色づき始めた(2022年11月9日)①②③原優希(国際教育学科1年)=文・写真

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