114号HP用
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60年ほど前の都留の古写真に、十数人の人びとが川釣りをしているようすが写っていた。かれらは手作りの長い竹竿を使ってアユを釣っていたという。私も自分で竿を作って、釣りをしたい。そうして、かつて先人たちがこの川で釣りを通して何を考えていたのか、想像してみたいと思ったのだ。釣り場を知る4月29日の朝9時過ぎに川へ向かう。途中、水路に30センチほどの魚を見つけた。「ニジマスです。この位置(魚から3メートルくらい離れたところ)から釣るんです」と目の前のニジマスで釣りのようすを再現してくれたのは、西にし教のり生お先生(41)だ。釣りの経験や道具作りの知識に富む西先生が、竿作りから釣りのコツまで教えてくれるというので心強い。とはいえ、いざ魚を目の前にすると、こんなに大きな魚を、手作りの釣竿で持ち上げられる気がしなかった。川釣りでは川の下流から上流に移動しながら釣るのがふつうだという。下流のあたりにある竹林で竹を取り、竿を作ってから釣りに向かうことにした。平均台ほどの狭さの土手を進む。土手の高さは3メートルくらいだろうか。この高さから川に落ちるのは怖いので、川が流れる反対側に体の重心を置きながらゆっくりと進んだ。今日は、下見のときに魚影が見えた箇所に魚はいないようだ。狙っていたスポットだったが、ほかに釣れそうな場所を探してみよう。竿を作る進むにつれて土手の高さが低くなり、川との距離が近づいてきた。草地が開けたところにいったん荷物を置いてから、もう少し進んだ先の竹林で自分に合った長さや太さ、好みの形の竹を見つける。竹は、切ってすぐは水分を含んでいて重い。切ってから数か月~一年乾燥させるのが一般的だが、今回は乾燥させずに使う。竹林には多くの竹が生えていて、一本いっぽん長さや太さが違う。長いと遠くまで竿が届くぶん、扱いは難しい。太さも考えると重くて持つのが大変だ。 さらに、先がまっすぐな竹と、下にしなるように曲がっている竹がある。迷ったが、私はできるだけ長くかつ片手でしっかりと握れる太さの、先がまっすぐな竹を選んだ。釣竿は持ち手がしっかりしていて先が長いイメージが強かったからだ。お目当ての竹を、ノコギリを使って切り倒す。両手で持ってもなかなか重かった。剪せんてい定ばさみを使って余計な葉を切り落としていく。竿に使用する軸の部分を誤って切らないように慎重に笹を落としていった。先端についていた葉が切り落とされると、竹が根本から先端にかけてだんだん細くなっているのがわかり、すでに竿らしく見えた。今回は「流し釣り」をする。「流し釣り」は、針を上流側に投げ、川の流れに任せて針を流し、引き上げてふたたび上流側に投げる。これを繰り返して魚を待つ漁法だ。先ほど作った竿で、針を投げる練習をする。竿を右手に持って、左手で針の20センチほど上を持ち、下から投げる。狙った位置に向けて針を投げようとするが、利き手と反対の手で物を投げるのは難しい。てこ00の原理を使う釣竿に聞くno.114 Jul. 2023 1212
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