114号HP用
16/52

夜の森を見る今回の観察場所。左上の丸の30センチほどの段差が、カワネズミがもっとも観察しやすい場所だという(2023年4月22日)本学フィールドミュージアムに所蔵されているカワネズミの剥製。日本で唯一、陸上と水中を生活の拠点とする哺乳類である(2023年5月5日)カワネズミという動物の名前を聞いたことがあるだろうか。名前にネズミとついているがモグラの仲間だ。日本各地の渓流に生息し、水のなかを自由自在に行き来する動物である。晴れた昼間に見ると銀色に見えることから、銀ネズミとも呼ばれる。地域交流研究センターの教授であり、私たちと本誌を作っている北垣憲仁先生はカワネズミの研究をされている。私がカワネズミを知ったきっかけのテレビ番組も、北垣先生が監修されたそうだ。カワネズミをじっさいに見てみたいと思い森に向かった。カワネズミに会いに行く カワネズミは、動きが素早い。そのため、川幅が狭く、獲物であるヤマメやサワガニが多く生息しているところで観察しやすいという。また、カワネズミは目が小さく、明るさを感知する程度の視力しかないそうなので、おもに感覚の鋭いひげを使って狩りをする。視力に頼らないので、時間に関係なく動くことができるが、そのなかでも夕方から夜間の活動がもっともさかんになるそうだ。 4月22日にはじめてカワネズミの観察をした。場所は柄しゃくながれがわ杓流川のなかでも東ひがしかつら桂と西にしかつらちょう桂町に位置する湯の沢だ。ここは北垣先生がはじめてカワネズミを観察したところだそう。2時間ほどかけて行うが、これは人が森のなかに長時間いることで、動物たちのストレスにならないようにするためだ。観察というと、1日かけて行う印象があったので、思いのほか短いことに驚いた。カワネズミを見ることはできるだろうか。ソワソワしながら湯の沢に向かった。 ダウンジャケットに長靴と、防寒対策を万全にする。車を降りたとたん、激しく降る雨に似た、柄杓流川の音が聞こえる。奥に見える森は薄闇におおわれ、なんとなく不気味だ。川を越え、その支流をさかのぼっている途中に、フジの木の枝が青い花をつけて垂れ下がっていた。フジの花といえば、藤色という色があるように淡い紫色の印象があったが、ずいぶんと青みがかっていて意外だった。 3分ほど歩くと、観察にちょうどよさそうなところを見つけた。川幅は2メートルほどで、30センチほどの段差から水が勢いよく落ちる音がする。さっそく川に降り、準備をは

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る