114号HP用
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経文をめくっているようす。パラパラという音が部屋のなかに響き渡るno.114 Jul. 2023 2626no.114 Jul. 2023 2626お惣菜まんじゅう藤江さんのおまんじゅう。ひとつずつていねいに包まれていただ。他にも、本学の学生が主体となって行う、つるっ子プロジェクトによる、つる食堂のスタッフのみなさんも準備をしていた。11時から始まる大だい祈き祷とう会えまで少し時間があったため、屋台をまわることにした。まずは藤江さんのおまんじゅうだ。あんこの一般的なものから、じゃがバターやなすなど、はじめて見るものまでずらりと並んでいる。味の種類の豊富さに優柔不断な私はどれにするか迷ってしまう。やっと決めることができ、おまんじゅうを購入する。私はかぼちゃとさつまいもを、編集部員二人は切り干し大根となすのおまんじゅうをいただいた。柔らかな生地と優しい味が癖になりそうだ。次にまるやさんのとり天をいただく。ボリュームのあるとり天とまろやかな半熟卵が合わさって、私たちの頬を緩めた。ベンチに座ってとり天を頬張っていると、近くにいた男性が「甘茶飲みましたか」と声をかけてくださった。紙コップに入った甘茶を受け取ると、甘茶のあたたかさがじんわりと指先に伝わってきた。はじめて見る甘茶にどのような味がするのかと想像する。さっそくいただくと、砂糖とはまた違った甘さが口のなかに広がる。甘いものが好きな私は、こういった甘さもあるのかとはっとさせられた。編集部員二人が「のんびりとできる感じがいいね」「全然宗教っぽさを感じないね」とこぼす。耕雲院の花まつりがめざすことを事前に二人には伝えていなかった。二人の言葉で、耕雲院の花まつりがゆったりさを伝えられていることに気づいた。非日常を味わう耕雲院の花まつりで一番のみどころである萬まん燈とう大祈祷会が始まる。この名前は「万灯供養」と「大祈祷」をかけあわせて名づけた耕雲院オリジナルの祈祷だ。みどころは300本のろうそくである。祈祷のあいだ、電気などの照明はすべて消され、ろうそくの灯りだけが頼りになる。たくさんのろうそくが灯るなかでふと目を開けたときに、見えてくる世界と向き合ってほしいという意味が込められているらしい。「非日常を体験してほしいです。」取材でこう語っていた河口さんの言葉が頭をよぎった。どのような体験をすることができるのだろう。どこから入れば良いのか迷っている私たちに、若い女性が「こちらのほうへどうぞ」と声をかけてくださった。はじめての祈祷への緊張とわくわくした気持ちが混ざり合った感情が私を包みこむ。落ち着かない気持ちのまま祈祷が行われる部屋につづく廊下を歩いて行った。部屋に到着して足を踏み入れる。足元を見ていた顔を上げた途端、たくさんのろうそくの灯りが私の目に飛び込んできた。あたり一面がオレンジ色に染まっている。ろうそくの小さな灯りを消さないよう注意を払いながらそっと座席へ向かう。先ほどまでのにぎやかであたたかい雰囲気とは一転、静かで厳かな雰囲気が私を包み込んだ。
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