114号HP用
27/52
272727原優希(国際教育学科2年)=文・写真耕運院の中心に置かれた白象と花御堂。誕生仏は小さいけれども、像の迫力と花の鮮やかさが目を惹きつける写真はすべて2023年4月8日に撮影しました。しばらくして、河口さんを含めた複数人の住職さんたちによる掛け声とともに大祈祷が始まった。住職さんたちがすさまじい勢いで経文をめくる音と、経文を読む大きな声が部屋のなかに響き渡る。勢いと声に圧倒されて思わず私の背筋も伸びる。住職さんたちを囲むように300本のろうそくの灯りも揺れている。一本の小さな灯りが300本も集まるとこんなにも熱くなるのか。驚きのあまり何も声を出すことができなかった。大祈祷会が終わり、ひとりの住職さんが終わりのあいさつをする。そこでは、コロナ禍のあいだ、花まつりが思うようにできなかったことを話していた。河口さんがろうそくを一つずつ消し始める。先ほどまでオレンジ色に染まっていた目の前が、だんだん薄暗くなっていった。祈祷が終わったことに少し寂しい気持ちになる。河口さんが「ぜひ、ろうそくを持っ帰ってください」と声かけをしていた。私は河口さんの言葉に甘えて4本ももらってしまう。ろうそくを見るたびに祈祷のことを思い出すことができるかもしれない。そう心を踊らせて部屋を後にした。向き合う最後に甘茶がけをするために、花御堂がある場所へ向かった。お堂は先ほど祈祷が行われた部屋の外にある。私の身長よりも半分ほどの大きさである白い象の上に花御堂が置かれていた。これは白しろぞう象と呼ばれるもので花まつりの必需品だ。お堂に飾られる花は、まつりを行うさいにお寺に咲いている花を使っているそう。花御堂の華やかさに、私だけでなく、その場にいた人たちも目を惹きつけられていた。さっそく甘茶がけをする。白象の横に備え付けられていた木製の白い台に上り、花御堂のなかを覗き込む。甘茶のやさしい甘い香りが鼻の奥をすーっと通り抜けた。一杯、二杯と器のなかにある甘茶を、小さな杓しゃくですくってゆっくりと誕生仏にかけていく。生誕を祝うというと大人数で盛大にやるというイメージがあった。しかし、祝いの言葉を交わさずに黙々と一対一で向き合う祝いかたもあるのだと気づいた。***帰り道、ゆったりと過ごせる時間がもう終わってしまったのかと名残惜しくなる。振り返ると、どの場面を切り取っても、地域やお店のかたどうしが分け隔てなく話していたことを思い出す。そして、初対面の私たちにも気さくに声をかけくださっていた。なぜ、こんなにも人と人との距離が近くてあたたかさを感じるのか。きっと耕雲院が地域のために尽力し続け、それを支えるように地域の協力があるからだろう。そこには、自然とあたたかさの輪が広がっているのかもしれない。耕雲院の花まつりはこれからも地域のかたがたに愛され、互いにあたたかさを分け与える行事になるだろう。
元のページ
../index.html#27