114号HP用
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36no.114 Jul. 2023 カメたちに出会ったのは、都留のまちに引っ越してきた3月末のことだ。自宅から歩いて10分ほどの谷やむらまち村町駅近くを流れる家かちゅうがわ中川のなかに、そのすがたを見つけた。水の上には、カメたちが過ごすための小さな木製の台が置いてある。まちなかの用水路にカメがいるなんて、はじめて目にした光景だった。最初の出会いから約1か月が過ぎたころ、ふたたびカメたちのようすを見に出かけた。まぶしい日差しが照りつけるなか、どんなふうに過ごしているのだろう。わくわくしながら川をのぞき込んで、思わず歓声を上げた。台の上に、たくさんのカメがいたのだ。このまちの友だちが増えたようで、胸が弾んだ。カメたちの動きは目まぐるしい。首を伸ばしてあたりを見回すと、すぐにちゃぷん、と水に入って泳ぎだす。ひなたぼっこをしていた1匹が、別のカメの甲羅の上によじ登りはじめた。よじ登られたほうはちっとも気にしていないようすだ。重くないのかな、とくすっと笑ってしまう。5日後には、台の上でじっと雨に打たれているカメがいた。どっしりとして、岩のように動かない。甲羅が雨に濡れ、つやつやと光っている。水中からすぅーっと浮かんできたカメが、私のすぐそばの水面に顔を出した。こちらを見つめているようで、なんだか私が観察されている気分になる。私はいったいどんなふうに見えているのだろうか。近くで写真を撮らせてくれてありがとう、と小さな瞳を見つめ返した。曇り空の日、台の上には1匹のすがたしか見当たらない。みんなどこにいるのだろう、と暗い水中に目を凝らす。すると、小さいカメが大きいカメの後ろを追いかけるように泳いでいるのが目に入った。親子だろうか。2匹はだんだん水面へと上がってきて、壁ぎわに並んで顔を出した。壁に両手を添えているのがかわいらしい。今まで見たなかでいちばん仲良しなようすに、ほほえましくなった。のびのびと生きるカメたちのすがたを眺めるたびに、慣れない環境で感じていた不安が和らいでいった。都留にすむ「先輩」として、自分のペースでいいんだよ、と教えてくれているようだ。今度はどんなすがたを見せてくれるだろうか。カメたちに会いに、また家中川沿いを歩いてみよう。日光浴をするカメたち。この場所を拠点に過ごしているようだ(2023年5月2日)印南響(比較文化学科1年)=文・写真水面に顔を出した2匹のクサガメ。水から上がると、その体は黒っぽく見えた(2023年5月2日)川沿いの出会い

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