114号HP用
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37赤い架け橋北原日々希(地域社会学科1年)=文・写真谷村町駅前のポスト。「日本郵便」のシールや、郵便物の収集時刻を示す表などが貼られている(2023年6月4日)谷村町駅とポスト。谷村町駅以外にも、富士急行線の駅前にはポストが設置されている(2023年5月25日)都留の住民になって一週間ほど経ったころ、私は友人に手紙を出した。彼は今、伝統芸能の修業をしている。その研修所の決まりで、携帯電話を持ち込めないそうだ。手紙を通したやりとりしかできないことにもどかしさを覚えつつ、ペンをとった。私のアパートの近くにはいくつかのポストがあるが、いちばん気に入って利用しているのは、谷やむらまち村町駅前のものだ。最初に見たとき、実家の近所にあったポストに比べてずいぶんと年季が入っていたので驚いた。新しい建物が多いまわりの街並みとは違い、時の流れが伝わってくる。そんなどっしりとした雰囲気をまとっていた。遠くからではカクカクした直方体に見えるが、近くで見ると角には若干の丸みがある。直方体の辺がきっちりとした直線になっているので、直方体に見えたのだろう。また、塗装はところどころ剥げてしまっているが、赤色はとても鮮やかだ。なでてみると、剥げた塗料が粉っぽくなっていて、チョークを持ったときのようにうっすらと指ににじんだ。さらに近寄ってよく見てみる。ポスト自体は古びているけれど、それを更新するように、上から「日本郵便」や「郵政創業150周年」といった新しいシールが貼られていた。年代が統一されていない見た目から、このポストが長いあいだ使い続けられていることが想像できる。後日、いつごろから使われているのか調べてみた。すると、谷村町駅のポストは「郵便差出箱1号角型」という1970年から採用されている古い型だとわかった。設置された当時は「日本郵便」がまだなく、「郵政省」のポストとして利用されていた。肩書きは変わっても役割が変わることはなく、ながく本学の学生や都留市民の声を預かり、都留の外とつないできたのだろう。郵便は、私と友人をつなぐ唯一の架け橋だ。都留は細長い谷間で、山が住宅のすぐそばにある。大学とアパートの往復を繰り返していると、この街のなかだけで世界が完結しているような感覚になってしまう。そんなとき、年季の入ったポストに手紙を出しに行く。これまで学生や市民がそうしてきたように、私もこのポストを窓口にして大切な人と言葉を重ねていきたい。

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