114号HP用
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39「うぐいすホール」に向かう本学テニスコート横の階段。木漏れ日のなかをワクワクしながら歩いた(2023年5月16日)を歩く春陽谷上碧(地域社会学科1年)=文・写真※葉の一部で、葉を枝や茎につける柄状の部分ミツバカエデ。葉の縁が光の加減で白く光っているように見える。すうっと伸びる赤い茎も綺麗だ(2023年5月16日)新生活が始まってせわしなく毎日を過ごしていると、いつの間にか本学周辺を彩っていた桜の木は鮮やかな緑へすがたを変えていた。少しずつ色味の違う葉に魅せられ、携帯電話の写真フォルダは緑でいっぱいだ。まだ知らない植物を探して、本学の近くにある「うぐいすホール」周辺へ探索に向かった。道端に咲く花の甘い香りに、足取りが軽くなる。歩きながら地元の長野市を思い出した。長野市も山との距離は近いが、山は自然のもの、街は人間のものという境界があるように思う。いっぽうで、都留は山あいにあるからか自然と人間が一緒に暮らしている感覚に近い。鳥のさえずりで目が覚めることも、通学路で見たことのない植物に心を奪われることも、はじめての体験だった。ハート型の可愛らしい葉に足を止める。傾きはじめた日の光を、葉が全身にまとっている。葉が落とす影と光とがまざりあい、葉の上に水面のような模様もできている。光に透かしてみると、葉脈や葉の形がくっきりと浮かび上がった。レントゲン写真みたいだ。細部まで観察すると、種ごとの葉の厚さや葉ようへい柄(※)の色の違いが明確になる。別々の地で生まれたタネが、風に運ばれてきたのだろうか。そんな想像までしてしまう。さらに歩いていくと倒木を見つけた。コケに覆われた上に新しい植物が育っている。朽ちていく倒木と新しい芽、コケの深い緑と眩しいほどに明るい黄緑のコントラストに惹かれる。足元を見ると、枯れ葉の中から新芽がいくつも出ていた。こうして一つの植物の命が終わって新しい命が生まれるのだろう。新緑に誘われ、これまでじっくりと目を向けることがなかった葉のつくりや、植物の生きいきとしたすがたに魅力を感じるようになった。気になった植物の写真を頼りに、植物を調べることも増えた。都留で暮らさなければ、こんなに心惹かれることもなかったかもしれない。そう考えると、毎日のちいさな発見が愛おしいものに思えてきた。気づけば花の季節は過ぎ、木々は新緑から深緑へと色を深めている。水分を含んだ土と葉の青い匂いは、すぐそばで待つ夏からの便りのようだ。季節の移ろいとともに私も成長し、きっと次の春には今よりもつぶさに都留を観察できるだろう。そんな期待を胸に、今日も都留を歩く。

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