114号HP用
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42no.114 Jul. 2023 都留本学近くの用水路。ころころ、と聞こえる水の音に耳をすませるのが通学中の楽しみになっている(2023年6月22日)「道の駅つる」近くの用水路。子どもの声と水がはねる音が響いていた(2023年4月29日)久永奈央(地域社会学科1年)=文・写真鹿児島からやってきて約3週間が経ったある日、都留の自然を感じたくなり自転車に飛び乗った。暑くなるかもしれないと、思い切って選んだハーフパンツは春風を楽しむのにぴったりだ。ひとまず、自宅から自転車で10分ほどの谷やむらまち村町へ走ってみよう。用水路沿いを走り始めると、澄んだ水が目に飛びこんでくる。自然豊かな鹿児島から来た私でも驚くほど水が透明だ。幅が30センチほどだった地元の用水路より、都留の用水路は幅や深さ、水量がある。砂や草がたまっていて、雨のあとくらいしか水が流れなかった故郷と大違いだ。何より、ころころと聞こえる水の音が心地よい。どこまでもついて行きたくなるようなワクワクする音だ。しばらく走ると、田んぼの風景が広がる。私を取り囲む山々から、じわりと生命力を感じた。ふいに、ちゃぷちゃぷという音と子どもの楽しそうな声が聞こえてくる。どうやら、田んぼのわきにある用水路で水遊びをしているようだ。会釈をしながら通り過ぎる。幸せをわけてもらったようでペダルが軽い。本学方面へ戻り、三さんのがわノ側公園のベンチで昼食をとることにした。腰を下ろすと、自然と水の音に耳を傾けていた。ゴーゴーと水がコンクリートにぶつかる音がする。用水路を見ていると水面に落ちた花びらが、ずんっと沈みこんであっという間に流されていく。水の力強さを感じた。都留で聞こえる水の音をもっと聞きたくなり、日を置いて十とおかいちば日市場へ足を向けた。車通りが多く、歩みを進めるにつれて水の音が聞こえづらくなっていく。足元の用水路をのぞくと、鉄格子の隙間から見える水はしっとりと光っていた。車の通りが途切れると、とぅろろろろと用水路をなでるような音がする。さらに、用水路のなかは流水音の反響で満ちている。この音は車通りが多いと聞き逃してしまいそうだ。思わず、その繊細な空間に浸ってしまった。都留を流れる水の音は聞いていて飽きることがない。歩くのが楽しみになるような、まちの音と私の気持ちを忘れたくなくて、新しいノートを開く。名前をつけるなら、英単語「note」の「音、楽譜」という意味とフィールド・ノートをかけて、「都留note」なんてどうだろう。4年間の思い出をこの「都留note」に書きこんでいきたい。note
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