114号HP用
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4343踏切府内宏樹(地域社会学科1年)=文・写真【参考文献】『2018山梨県レッドデータブック』山梨県2018年都留での新しい生活が始まってしばらく経った4月下旬に、赤坂駅の近くの下しもや谷で遮断機が下りたままの踏切を見つけた。強い日差しのなか、ひっそりと立っている踏切は、鉄道好きな私を呼んでいるようだった。昼とは違う踏切のようすを見たいと思い、20時過ぎに電車で都留文科大学前駅から2駅先の都留市駅へ向かう。そして、駅前の道を大月方面に歩いた。昼間は半袖でも暑かったが、夜は長袖のパーカーを着ても寒い。踏切に近づくと、まわりの田んぼではグワァ、グワァとカエルの鳴き声が響き渡っていた。この鳴き声は、地元の名古屋では聞いたことがない。幼いころに歌ったカエルの歌の「ケロケロ」というかわいらしい歌詞とは印象が違い、低く響く鳴き声だ。余韻に浸っていると、遠くから踏切の警報音が聞こえてくる。列車が踏切を通過するあいだ、踏切のそばにある紫色の花が風に吹かれていた。ガタン、ガタンという振動を足元から感じる。列車最後尾のテールランプが暗闇に消えるとカエルの歌声がまた聞こえはじめた。21時を過ぎて列車の本数が少なくなったので、踏切のまわりを散策してみることにした。舗装された道まで出ると、握りこぶしくらいの大きさのカエルに出会う。カエルはみんな親指の爪くらいの大きさだと思っていたが、はるかに上回っていた。カエルとは無縁の生活を送ってきたため、種類が分からない。調べてみると、背中のはっきりとした線が特徴のトノサマガエルだと分かった。このカエルは準絶滅危惧種に指定されている。貴重なトノサマガエルを見つけられた経験を地元の友だちに伝えたくなった。トノサマガエルの大きさと珍しさに惹かれ、5月下旬にふたたび同じ場所へ向かったが、見つけることができなった。けれども、グイィ、グイィと鳴くアマガエルに出会う。小さなからだでありながら大きな声で鳴くすがたは頼もしく見えた。これからの大学生活の不安を和らげてくれた気がする。7月中旬、久しぶりに観察へ向かう。すると、時の流れを感じることができた。踏切そばにあった紫色の花は枯れていて、カエルのすがたも見られなかった。なにげない日常は、毎日少しずつ変化して次の季節へと向かっている。変わりゆく日々のなかで次はどんな都留らしさを発見できるだろう。の先に下谷で見つけた踏切。横断するには自分で遮断機を上げなければならない(2023年7月17日)側溝のなかで偶然見つけたトノサマガエル。見つけることができたのはこの日だけだった(2023年5月16日)

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