FN115号
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13【参考書籍】『郡内の民話』内藤恭義 1991年   あらすじは『郡内の民話』を要約しています。ると、金と紫の幕が鈍い光を反射しながら垂れている。その下には大きな屋根をもつ厨ずし子があった。厨子とは、仏像を安置するための堂の形をした仏具のことだ。このなかに西桂から流れてきた薬師如来像が祀られている。のぞきこむと、想像していたよりも少し小さな仏様が座っていた。高さは30センチメートルほどだろうか。法ほうい衣の部分は黒く、そのほかの顔や手は金色だ。流れてくるうちに法衣の塗装がとれてしまったそう。左手には薬壺を持っている。この薬の効能が物語の娘に届いたのだろうか。両脇には、薬師如来の補佐をする役割があるという日光菩薩と月光菩薩が、左右対称に祀られている。さらに、3体の仏様の前では、薬師如来を信仰する者を守護するといわれる十じゅうにしんしょう二神将が鋭い視線を放っている。瞳はガラス玉で作られていて、頭の上には干支をのせていた。これほど仏様がそろって祀られているのは珍しいという。語りと縁「禅宗は﹃縁﹄を大事にする宗派なんだよ」と武藤さんは話す。臨済宗のお寺はそれぞれ右:長慶寺の洗眼の水のなかに咲いていたバイカモ。光を反射し、花弁の白さが際立っていた(2023年9月30日)左:熊太郎稲荷神社の近くの用水路。近くには熊太郎水源がある(2023年9月26日)祀っている本尊が違う。長慶寺が薬師如来を本尊としているように、それぞれの土地にゆかりのあるものが大事にされているのだ。今回、お話をうかがって生まれた縁もまた、私の言葉で身近な人に広がっていく。生活のなかにある縁は語りによって生まれているのかもしれない。***図書館で偶然目に入ったのは、﹃鹿児島の昔話』という本のタイトルだった。故郷の名前が懐かしくて、思わず手にとる。そのとき、都留に来てからのほうが、地元のことを知りたいと思っていることに気づいた。次に選んだのは、都留の昔話が載っている『郡内の民話』だ。都留に来て間もない私でも、知っている土地の名前に心が躍る。昔話の今をたどると、その物語は住宅地のなかで、お寺のなかで、しっかりと息づいていた。都留の人たちは、この地域に伝わる物語をどれほど知っているのだろう。昔話を知っている人は少ないかもしれないけれど、この場所を大切にしている人が確かにいるということに気がついた。「知りたい」という想いは語りに気づくきっかけになる。私は、これからどこで、誰と、何を語っていこう。すぐそばにあるものをいつもより少しだけ大切に思える冬になりそうだ。久永奈央(地域社会学科1年)=文・写真

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