FN115号
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1515高部さんが「バキッていっちゃったら怖いですよね」と苦笑しながら、ドライバーを接着面に差し込む。修理するおもちゃには、おもちゃ病院に訪れた人の思い出や、元気なおもちゃでまた遊びたいという子どもの想いが詰まっている。人の想いが込められているものを預かる責任が、おもちゃを傷つける怖さを感じさせるのだろう。強い力が必要だが、おもちゃの大切な体を傷つけないよう慎重に手を動かす。見ているだけの私の手も震えてきそうなほどに、緊張が伝わってくる。ゆっくりと時間をかけ、やっと接着面が開いた。電池を繋ぐと、モーターの動きに不具合はないが、モーターの先にあるギアどうしがうまく噛み合わず、タイヤが回転していない。7個すべてのギアを外し、はじめから組み立てるという。ギアは大小さまざまで、大きいものでも小指の爪ほどの大きさだった。小さいギアはその半分の大きさで、指先でつまむのも難しそうだ。ギアを組み立てるときも、正しく動くおもちゃの部品を参考にする。今回修理している電車のおもちゃは、よく修理に持ち込まれるのだそう。仕組みが簡単で、修理がしやすいと話す。それでも、細かい部品を正しく組み立てるために時間をかける必要がある。集中して作業する邪魔になってはいけない。無事に直りますようにと祈りつつ、そっと高部さんのもとを離れた。修理の後には20分ほどたって高部さんのもとに戻ると、モーターの回転音とともにすべてのギアが回っていた。できました、とほほ笑む高部さん。ここでほっと一息つく間もなく、修理した部品を電車に組み込む作業に移る。先ほど接着剤をはがした箇所にはんだづけをしてから、部品を覆うように電車の外側を取り付けていたグループでは、どうやらネジが外せないらしく、サイズの合うドライバーを探してる。机に置かれた電車は、スイッチを入れるとまっすぐに進んだ。ここでようやく、高部さんの表情がほころぶ。そして修理が完了したおもちゃを手に、ほかのお医者さんに報告しにいく。おもちゃのどこに不具合があって、何の道具を使ってどのように修理したのかを話す高部さんは、楽しくて仕方がないといったようすだった。それを聞いている人たちも、「そうだったのか」と興味津々でうなずき、「お疲れ様」とねぎらう。おもちゃ修理は修理をしている間だけでなく、それを報告し合う時間にも楽しみがあるようだ。一人でやっても直らないおもちゃの修理は何人か集まって、おもちゃの不具合の原因を探るところから始まる。「ここはこうしたら」、「ここの締まりが悪いね」と意見が飛び交う。修理のめどが立ったのか、必要な道具の貸し借りをしたり、道具の使いかたを教え合ったりしていた。モーターで動くクジラのおもちゃを修理し上:おもちゃを修理する高部さん(2023年10月20日)下:小さな部品のなかには、さらに小さな部品がたくさん入っていた(2023年9月16日)
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