FN115号
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19方向転換で、屋台を持ち上げるようす。見物する人びとの視線が集まる(2023年9月3日)べて人手が多いため断っていた。将来の人手不足に備え、今年は本学の留学生の参加を受け入れたそう。外川さんは時代の変化に合わせて祭りの存続のために力を尽くしている。八朔祭の存続を願う外川さんの熱意がお話から伝わってきた。「せーの」八朔祭当日、私も早馬町のは•••っぴをまとい屋台を引っ張った。町の外からやってきた私にみなさんが話しかけてきてくださるのが、早馬町の一員になれたようで嬉しい。初心者だからと一歩引いた心持ちでいたが、背中を押されたような気がした。屋台から伸びる紅白の綱を町のみんなで引っ張る。屋台は約1200キログラムあり、そのうえお囃子を演奏する人たちが乗っているのでとても重い。しかし、一度動き出すと、案外軽い力で引くことができる。みんな力いっぱい引くので、ときどき「速い速い、少し抑えて」と指示がとぶ。屋台は大きく、引きかたによっては事故につながることもあるため、気を引き締めて紅白の綱をぎゅっと握りなおした。自動車のようにハンドルがあるわけではないので、交差点を曲がるときもひと苦労だ。一度屋台を持ち上げ、車輪を浮き上がらせたうえで方向転換をする。持ち上げるときは、「せーの」とかけ声を出して、息を合わせる。大勢で協力し合いともに汗を流すことで、お祭りは盛りあがっていく。八朔祭を楽しみ、ともに手を取り合う早馬町のみなさんの表情は、とても生き生きとしていた。そのやわらかな表情から、長い時間をかけて育まれた信頼関係が垣間見える。 ***早馬町のみなさんからお話を聞くと、八朔祭をとても誇りに思っていることが伝わってくる。また、練習でも本番でも、屋台のまわりには子どもから高齢のかたまでさまざまな人が集い、語りあっていた。こんなにも和やかな集いが生まれるのは、お祭りや屋台が、ただ文化としてあるのではなく、人と人をつなげる力をもっているからだろう。伝統を大切にするいっぽうで、早馬町のみなさんは新しく参加した私のことを快く受け入れてくださった。「来年も来てね」と声をかけてくださったかたも多い。お囃子の練習を見学して、都留に受け継がれる文化に触れ、ひとりの住民として都留への親しみが深まった。同じ町内のかたと顔見知りになり、ともに屋台に集うことで、早馬町を自分のまちだと胸を張って言えるようになった。きっと八朔祭は、これからも伝統を尊び受け継ぐ心や人の輪の温かさを、地域に生きる人たちに伝え続けてくれるだろう。北原日々希(地域社会学科1年)=文・写真
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