FN115号
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26no.115 Dec. 2023 no.115 Dec. 2023 もなく、ぴったりと張りついている。ツタウルシは、どのくらい上まで伸びているのだろうか。ツルを上に向かって目でたどっていくと、途中でスギの葉に隠されてしまう。そこで、はるか頭上をあおぎ見ると、青く晴れわたった空に、さえた赤色の葉がゆれていた。目立たない色のツルとはうってかわって、日光を透かしたあざやかな赤色だ。足下に視線をうつすと、茶色の落ち葉がいっぱい積もった地面にも、ツタウルシの葉が落ちている。光が差しこみにくい山のなかで、ひときわ目立つ赤色だ。木の幹をひたすらのぼりつづけて茂らせた葉は、秋になって紅葉する。そして、風に吹かれてひらひらと地面に落ち、大地の栄養になっていくのだろう。空の青さとスギの葉の緑色、ツタウルシの葉の赤色にうっとりする。顔を上げてはじめてみることができる景色をしみじみと眺めた。ツルに実る道路わきの茂みのなかを探していると、木の枝に絡みつくアオツヅラフジを見つけた。葉のあいだからひっそりと実をのぞかせているようすが、なんともかわいらしい。小さな実が集まった大きな豆型の実は、くすんだ紫色の皮が割れて、ぱかっと開いている。中心にある白い果肉は、たくさんの黒い種を包んでいる。食べてみると、ほんのり甘い味がした。きっと鳥や動物にとってのごちそうなのだろう。どのツル植物の実も、色や形、大きさがさまざまで、見つけるたびに心が躍る。ぱっと目を引くところにはないぶん、思いがけないところで見つけるとなんだか誇らしい。             *  *  *茂みのなかに、電柱に、建物の外壁に、つい見落としてしまいそうなところにもツル植物は生きている。身近にひそむツル植物を見つけだすのは、かくれんぼのようでおもしろい。植物の小さな工夫やきれいな実を見つけたときは、隠れた宝ものを見つけたようでうれしい。そして、誰かに自慢げに教えたいような、私だけの秘密にしておきたいような気持ちにもなる。遠くから眺めてみたり、顔を近づけて触ってみたり。距離を変えるだけで、気づきが増えていく楽しさがある。名前は何というのだろう。どんな花を咲かせて、どんな実をつけるのか。身近なツル植物にますます興味がわいてきた。た房が、ツルにいくつもついている。紺色の丸い実は、表面がうっすら白っぽい。ブルーベリーやブドウの実によく似ている。触ってみると、すべすべしていた。意外なことに、このアオツヅラフジの実には毒がある。果物に似たおいしそうな見た目からは想像がつかない。かわいらしい見た目に反して、生き抜くすべをしっかり身につけているのだ。愛らしさとしたたかさを合わせもつアオツヅラフジに、私はますます惹きつけられる。アパートが見下ろせる道路のそばには、アケビの実がなっていた。ツルは木の幹をらせん状にのぼり、枝にまで巻きついている。たくさん実をさげていて重そうだ。実を枝から切り取って手のひらに乗せると、ひんやりとした。熟しアオツヅラフジの実。なかに入っている種子はアンモナイトのような形をしている(2023年9月24日)【参考書籍】『里山のつる性植物 観察の楽しみ』谷川栄子 2015年

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