FN115号
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34no.115 Dec. 2023 原優希(国際教育学科2年)=文・写真①メガネを使ってボルトを締めているようす(2023年10月11日)②川辺さんの工具たち。はじめて見る工具ばかりで目を惹きつけられる(2023年10月11日)③手にとってみると思っていたよりも重く感じた(2023年10月11日)①②③共に歩んできた工具お店に入ってすぐ左手には大小さまざまな工具が並ぶ。私はペンチとドライバーしか知らない。たくさんある工具を眺めて、どんな名前なのか、何に使われるのかイメージを膨らませた。そのなかで、銀色で棒状の、両端に大きさが異なる丸い穴が開いている工具に目が留まる。川辺さんにこの工具の名前をうかがうと、「(工具の)メガネだよ。一番小さいものから大きいものまで6つある」とおっしゃった。メガネはボルトやナットと呼ばれるネジを緩めたり、締めつけたりするための工具だそう。工具だから堅苦しい名前だと思っていたが、意外にもかわいらしい名前だ。ここに並んでいる工具はすべて、川辺さんがお店を始めたころから使い続けているものだという。62年も使い続けていると、どこか壊れてしまったり使いものにならなくなったりしてしまいそうだ。しかし、それぞれの工具はたくさん使った跡を残しつつも、きれいに置かれているようすから川辺さんが工具を大切に使っていることが伝わってきた。***自転車を直すためには工具だけが必要だと思っていた。川辺さんが自転車と向き合っているすがたを見て、工具だけでは自転車を直すことができないことに気がついた。不具合の原因を正確に見つける目、道具を使いこなす手、自転車の調子を確かめる耳、こうした感覚も目には見えないけれども大切な工具になるのだ。これらの感覚は誰もが持っている。しかし、これまでに自分が関わってきたことや、関わってきたことに対してかけてきた時間によって、感覚の在りかたは人それぞれ変わってくるのだろう。川辺さんは長いあいだ、たくさんの自転車と向き合い続けてきたことで、川辺さんにしか発揮することのできない感覚を磨き上げることができた。私もこれから出会うかたや、予想もできないようなあらゆる経験を糧に、自分が持っている感覚を磨いていきたい。ひとつのことに向き合い続ける川辺さんから、自分だけの感覚を磨いていくことの大切さを学んだ。
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