FN115号
42/56
42no.115 Dec. 2023 秋が近づく夜の森前回よりも多くのカワネズミを観てみたい。そう思い、まずは8月25日に観察をおこなった。川沿いに腰を落ろし空を見上げると、緑のモミジの隙間からふたつの星がのぞいている。どこからかジインと虫の声が聞こえた。昼はまだまだ夏まっさかりなのに、夜は秋の足音が聞こえてくるようだ。19時50分、以前の観察でカワネズミを見た時間になった。同じ時間にカワネズミが現れるわけではないとはわかっているものの、今までより前のめりになって流れを見つめる。すると目の前をふわりと白い何かが横切った。カワネズミかと驚きで体が震えたが、残念ながらガであった。それからまた変化のない時間が続いた。対岸にいる北垣先生のほうを見ると、すぐ後ろで青白いふたつの光がふわふわ漂っている。見間違いだろうか。一度、目をつぶる。ふたたびまぶたを開けたとき、その光はなくなっていた。しかし、しばらく経つと、ふたたび同じ場所に青白い光が現れた。2、3秒光ったかと思うと、ふと消えてしまう。いったい何だろうと怖くなる。すると突然、ジーと虫の声が響いた。ブザーのようにピンと張った音だ。驚いて声が漏れそうになる。時間にすれば30秒ほどであったが、ずっと鳴り続けるのではないかと思うほど長く感じた。カワネズミは現れないまま、観察を終える時間になった。駐車場に向かう道すがら、北垣先生に先ほど見えた青白い光の話をする。「たぶんシカじゃないかな」。その言葉に張りつめていた力が抜け、手に持っていたライトを落としかけた。光の正体は、シカの両目だったのだ。「シカですか」「そう。危害を加える前号では、カワネズミの観察をするために夜の森へ向かった。そこには、まちなかとは異なった空間が広がっていた。夜に生きる生きものにより近づきたいと思った私は、北垣先生とともにふたたび東ひがしかつら桂の湯の沢にある旧養魚場を訪れることにする。浅井祐音(学校教育学科2年)=文・写真の生きもの夜を観る川のなかに石を積むことで、カワネズミがその上を通ったのがわかりやすくなる(2023年9月28日)左の写真の昼間のようす。秋が深まり、積んだ石に落ち葉が引っかかっている(2023年11月22日)
元のページ
../index.html#42