FN115号
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43岩の隙間に作られたネズミの巣はいろいろなところへつながっているという(2023年9月28日)ことはないと思うよ」。そのような会話を交わしながら森を抜けた。夜に生きる生きものたち次に観察に訪れたのは、それから1カ月後の9月28日だった。この日は最高気温が34度と、夏が帰ってきたような暑さだった。どのような服装にしようか悩んで、春先に着ていた厚手のパーカーを用意する。観察を始めたのは、19時を少し過ぎたあたりだ。それから30分ほど経ったころ、上流に何やら動く影を見つけた。ライトを向けると、5センチほどの小さな魚が浮かび上がる。魚を見るのは夜の森でははじめてだ。カワネズミは魚や水生昆虫を食物としているため、今晩は見られるかもしれないとワクワクする。5分ほど経ったころ、下流にある岩場を小さな動物が走った。野ネズミだ。小走りで岩場を移動する野ネズミは、器用にするりとその隙間に消えていった。川に目を戻すと、ふたたび魚が泳いできた。しかも2匹いる。あちらこちらに動く影にライトを合わせていると、もうひとつ魚の影が増えた。10センチはあるだろう。ライトで照らしながら、今日はよく生きものを見ると呟くと、北垣先生に「それは夜の森に慣れてきたからだよ」と言われた。たしかに前号も含めて6回ほど夜の森で過ごし、得体の知れなさを感じることは少なくなった。観察のしかたはほとんど変えていないのに、慣れてきたというだけで、こんなにも観察できるものが増えるのだろうか。今までの観察で、私はたくさんの生きものたちを見落としていたのかもしれない。そのようなことを考えていると、観察を終える時間まであと10分になっていた。今日は見られそうだという予感は外れたかと肩を落とす。そのとき、下流から小さな丸いものが川のなかに積まれた石をピュッと越えていった。あわててライトを上流に向ける。銀色のかたまりに光が反射した。かたまりは一度橋台にぶつかると、川の向こうへ行ってしまった。「今のカワネズミだったね」北垣さんに声をかけられる。「前より小さかったですよね」「たぶん子どもかな」。ずっと待っていたカワネズミを見られて嬉しいはずだが、やけに冷静だった。もう今日の観察は終わりだと油断していて、実感が湧きにくかったからかもしれない。カワネズミの泳ぎかた10月16日は、昼間でも長袖がちょうどよい一日だった。夜は冷えると考え、冬用のダウンジャケットを着る。19時に観察を始めてわずか5分後、カワネズミが上流から現れた。泳ぐというより、川の流れに身を任せているように見える。小さな丸いからだをしなやかに動かして、石のあいだを潜り抜けていく。カワネズミは足を伸ばせば届きそうなほど近くを通っていったが、突然のことに目で追う
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