FN115号
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44no.115 Dec. 2023 観察を終え、駐車場に戻る途中に少し欠けた月が見えた。まるでおとぎ話のなかにいるようだ(2023年9月28日)ことしかできなかった。今までの観察から推測すると、カワネズミは30分ほどするとまた戻ってくる。またカワネズミが見られるかもしれないと、はやる気持ちを落ちつかせながら水面を見つめる。新たな一面と出会うそれから20分が経ったころ、下流のほうでふたつの銀色のかたまりが動いた。流れを気にすることなく自由に川のなかを行き来している。まるで仲良く遊んでいるようだ。カワネズミだろうか。判断できずにいると、そのうちの1匹が目の前を通り抜けていった。「今のもカワネズミだね」。そう北垣先生に言われた。やはりそうだったか、と写真を撮り損ねたことを悔しく思う。しかし、カワネズミが川の流れに関係なく自由に泳いでいるのははじめて見た。カワネズミの新たな一面を発見できたようで少し誇らしくなる。まだ観察を始めて30分も経っていないのに、カワネズミに2回も出会えた。これも、夜の森に慣れてきたからなのか。それとも、たまたま今日だけカワネズミがよく現れるのか。ふと日没が早くなっていることに気づく。カワネズミの活動する時間と、日没の時間にはなにか関係があるのだろうか。それから10分して、今度はカワネズミが上流から現れた。先ほど通って行ったのが戻ってきたのだろうか。今度こそはとカメラを構えていたが、シャッターが間に合わないほど素早い身のこなしだった。それからまたカワネズミを待つが、いつ現れるかわからないので、川から目を離すことができない。メモを取るのもひと苦労だ。川を見続けていると、対岸を小さい何かが走り抜けていった。今度こそは撮影しようとレンズを向けるが、どうやらネズミだったようだ。小さく息をつき、空を見上げる。急にザアザアと川の音が鮮明になった。ぐるりとまわりに注意を向けると、虫の声や上流から運ばれてきた風の冷たさに気づく。今日は、はじめからカワネズミを観察できたことでそわそわしてしまい、落ちついて夜の森を見ていなかったようだ。意識を向けるものを変えるだけで、感じられるものがこんなにも違うのかと、不思議な気持ちになる。同じ観察方法でも景色が変わることに、少し胸が高鳴った。* * *私は半年かけて夜の森へ何度も訪れた。はじめは恐ろしさで何も見えなかったが、だんだんと川の音や森の匂いを楽しむ余裕が出てきた。そして今号では、夜の森に慣れ、意識を集中させることで、夜の生きものたちのすがたを感じられるようになった。じっさいに何度も訪れ、時間をかけて向き合うことで、ふだんは気にも留めないことと出会うことができるのだろう。
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