FN115号
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46no.115 Dec. 2023 『コーヒー文化研究』の一部。コーヒー豆の焙煎がデータに基づいていることが分かる(2023年10月24日)どるとはどういう意味だろう。中村さんはよく理解できていない私に、「学びの根本にあるものを理解することが大切」と説明してくださった。それは、何かを学ぶとき、なぜ学ぶのか、何のために学ぶのかを考えることだという。中村さんはコーヒーの元をたどるため、最古のコーヒーであるモカコーヒー(※①)を学んだ。エチオピアとイエメンにそれぞれ10日ずつ滞在し、畑での栽培や豆の焙煎方法などを自分の目で確かめた。勉強の根本にあるものを知るために外国に飛び出す。私には想中村さんにとっての過去とは、自身の経験だけでなく、今までコーヒーと向き合い続けてきた先人たちの功績もさしている。だから過去から学ぶのだと中村さんは言う。お話の途中、中村さんはカウンターから一冊の冊子を取り出した。表紙には「コーヒー文化研究」とある。中村さんご自身が書いたものだそう。開いてみると、コーヒー豆の写真とともに、理科の実験で使うような表やグラフがいくつも載っている。理系科目が得意ではない私は、思わず顔をしかめた。中村さんの説明によると、コーヒー豆の季節ごとの水分量や積算温度(※②)に関するデータが掲載されているそうだ。焙煎は、豆の種類や空気中の湿度に合わせて行うため、このデータが役立つという。像もつかないことだ。 エチオピアでは、各家庭で火を起こし、生のコーヒー豆を煎り、ジャバナという道具で抽出してコーヒーを作る。そのため一杯のコーヒーを淹れるのに2、3時間かかるそう。たった一杯が出来上がるのにこれほどの作業が必要だなんて、なんだかじれったいように思える。しかし、この行程があるからこそ、一杯を大切に味わうことができるのだろう。次はコーヒーを頼んでみようかなと思いながら、ふたたびカフェオレに口をつけた。学びとの縁「君たちに質問です。明日はあると思いますか」と、中村さんがおっしゃった。いきなりの質問で言葉に詰まったが、「あると思います」と返した。すると中村さんは「それは常識にとらわれているよ」と笑った。頭のなかが疑問符でいっぱいになる。「明日はあくまで過去をたどった延長線上にあるものだから、明日があるというのは思い込み」と中村さんはおっしゃった。積み重なってきた過去があるからこそ、明日がうまれるということだろうか。※①イエメンのモカ港から豆が輸出されていたことがその名の由来となっている。対岸のエチオピア産のコーヒー豆も一緒に輸出されていたため、エチオピア産のコーヒー豆もモカコーヒーと呼ばれている淹れていただいたコーヒー。苦味だけでなく酸味もあることに気がついた(2023年10月18日)
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