FN115号
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no.115 Dec. 2023 50谷上碧(地域社会学科1年)=文・写真店内のようす。壁が3面ガラス張りになっていて、食事とともに山並みや四季の移ろいを楽しめる(2023年10月31日)プレッシャーがあった。ご両親にお店を開きたいと打ち明けると「本当に続けられるの?」「大変だよ」と引きとめられたという。もちろん希さんも長年お店を営んできた二人を見ていたから、お店の経営が大変であることは十分わかっていた。それでも「一度都留でお店を始めたら、やめるなんてぜったいに言えない」。そんな覚悟とともに開店を決意した。希さんの語りからは、緊張や不安だけでなく、難しいことに挑むことへのワクワクが伝わってくる。過去の挑戦が、今では経験となって希さんを支えているのだろう。重圧や不安も自分のエネルギーに変えてしまう強さを感じた。父親の操さんは希さんにとってどんな存在かと聞くと、「偉大な存在」とすぐに答えが返ってきた。そのようすから操さんに対する尊敬の念が伝わってくる。長年コーヒーを追求してきた操さんの背中は、たしかに大きく見えることだろう。開店前は操さんがいちばんの壁だと感じていて、最後まで料理を食べてもらうことが怖かったそうだ。しかし開店の数日前に操さんに料理を食べてもらうと「うまいじゃん」と褒められ、早く食べてもらえばよかったと安心したという。今ではご両親とも知り合いにお店を紹介してくれるそうだ。「いいと思ったものしか伝えない人だから、紹介してくれるということは二人に認めてもらえたのかな」と希さんは話した。希さんの信念店名の「tokidoki」には、「その時々の季節に合った料理を出す」「時々休憩しに来てもらえるような、ほっとできる場所にしたい」という意味のほかに、「目の前の一瞬を大切にしてほしい」という意味合いがある。希さんは「やらなきゃいけないことより、やりたいことをやってほしい」とおっしゃっていた。それは無責任なのではなく、自分の心に正直に生きるということだ。今の自分が何をしたいのかを問いかけて人生を進めていく希さんの生きかたからは、覚悟のような強さを感じる。直感や歩んできた道を大切に思っているからこそ、そうした覚悟をもって大きな決断ができるのだろう。***希さんには、自分の気持ちに嘘をつかない誠実さ、好きなものへの追求心、やりたいと思ったことを本当にやりとげてしまう粘り強さがある。そんな希さんを私はかっこいいと思った。やりたいことができたら、自分の置かれた状況にいいわけをせず、自分の力で、進みたい道を歩んでいく。人生は一度きりだから、後悔のないようにその時の自分に正直でいたい。その時々を大切にしよう、そう思える人生の先輩に出会えた。久永奈央(地域社会学科1年)=写真

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