116号マスターHP用
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旧インテリアハウスよこやまの二階にて。辰雄さんは、雛人形を飾っていたのではないかと話す旧インテリアハウスよこやまの二階にて。辰雄さんは、雛人形を飾っていたno.6茶壺と茶道具鉄瓶と茶釜はどちらも南部鉄器で、片手で持つと体が傾くほど重たかった。鉄瓶は蔵で見つけてから、下の写真のように湯を沸かすのに使用しているという23茅葺き屋根の飾り台no.5 茶壺茶釜鉄瓶中蔵の人形続いての蔵は最初に入った大蔵よりも天井が低い。奥のほうから辰雄さんが箱を抱えて持ってきた。母親の節句祝いの人形が入っているという。箱のなかには、顔に白い布が巻かれた2体の人形が入っていた。紺色に上品な銀色の柄の着物と、金色に淡い黄緑の柄の着物を召した人形だ。彩られた光沢は鮮やかに残っていて、布地も古びたようすがまったく無い。大切に保存すると、ここまできれいに残るのか。うちの屋根裏にある雛人形は、いつしか日の目を見なくなってしまっている。今はどんなすがたなのだろう。お内裏様が何色の着物を着ていたのかも忘れてしまっていた。実家に蔵はないけれど、思い入れのあるものを残していきたいと強く思った。顔に巻かれた布を外すと、男雛と女雛ではなく白髪のおじいさんとおばあさんだった。実家の人形と比べて渋い着物の色だとは思っていたが、この人形も雛人形なのだろうか。あとから調べてみると、この2体は「高たかさご砂人形」といい、長寿と夫婦円満の縁起物だということがわかった。このほかにも小さな人形が布にくるまってたくさん箱に入っていた。このなかからお内裏様を見つけ出すのは大変だ。「いつか人形を全部並べて飾りたいね」と辰雄さんが言う。お内裏様の人形との対面は、のちの楽しみにとっておくことになった。受け継ぐ退職したことをきっかけに、本格的に蔵じまいを始めたという辰雄さん。多くの物が残る蔵を整理している。輪島塗の茶碗を手にとって、「もしよかったら、これもあなたのご実家に送るよ」と辰雄さんが言う。頂いてよいのかとためらうと、「こういうのって、使ったときに息を吹き返すから」と返された。使われていた物が蔵に眠り、人の手によって再び使われたとき、物が息を吹き返す。それはていねいに保存してきたからこそだ。かつての使い手でなくとも物に込められた想いを受け継ぐことはできる。辰雄さんに頂いた物を大切に使うことでそれを証明したい。自分の想いが、いつか他の誰かに渡ったときのためにも。原口桜子(学校教育学科2年)=文・写真

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